日本勢が先行する炭素繊維 中国勢参入で正念場迎える 

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   「鉄より軽くて強い素材」が売り文句の炭素繊維の市場が拡大している。航空機や自動車から釣りざお、ゴルフクラブ、テニスラケットまで幅広く使われる炭素繊維は、東レなどの日本メーカーが得意とし、落ち目の日本経済にとって、数少ない希望の星。ご他聞に漏れず中国メーカーなどの参入で競争は激化する見込みで、日本勢は優位を維持できるか、正念場だ。

   世界の炭素繊維市場は現在、東レ、帝人、三菱レイヨンの日本勢3社で7割のシェアを占める。リーマン・ショックで一時需要が落ち込んだものの、再び販売量が増えており、調査会社「富士経済」によると、世界の炭素繊維の市場規模は、2013年に09年の約2倍の1480億円に増える見込みだ。

2012年ごろには需要に供給が追いつかなくなる

   需要を引っ張る主役になると見られているのが、航空機と自動車。従来の部品より軽い炭素繊維を使えば、燃費効率を高めることにつながるからだ。特殊なアクリル繊維を高温で焼いて作る炭素繊維は、炭素原子が規則正しく網目状に重なっているため壊れにくく、鉄の10倍の強度を誇る一方、重量は鉄の4分の1、アルミニウムの3分の2と軽く、宇宙開発などの新用途にも広がっている。

   こうしたことから、東レの日覚昭広社長は2010年4~6月期連結決算発表の席上、「12年ごろには炭素繊維の需要に供給が追いつかなくなる可能性がある」として、早期に設備拡充を検討する方針を示した。

   航空機向けでは炭素繊維世界最大手でもある東レが一歩先行している。米ボーイング社とは2006年に次世代旅客機「787」に供給する契約を締結。欧州の航空機大手エアバスグループとも2011年から25年まで製品を納入する契約を結んだ。帝人の子会社「東邦テナックス」も6月、エアバスグループやカナダのボンバルディア社と相次いで契約を結んだ。

   自動車向けでは三菱レイヨンが独BMW向けにドイツの素材メーカーと共同で供給を始める計画。東レも4月、独ダイムラーと部品の共同開発に乗り出している。

リサイクルの促進も重要テーマ

   ただ、これ以上の普及には高い価格がネックになっている。炭素繊維の1キログラム当たりの値段は現在、2000円前後とされ、鉄の20倍程度にもなるため、「ふんだんに使いたくても使えない状況」(大手自動車メーカー)。

   このため、各社とも量産体制確立を含めた生産性向上を進めているが、リサイクルの促進も各社の開発スタッフの重要テーマとなっている。1000度以上の高温でじっくり焼いて作る炭素繊維は製造時に多くのエネルギーが必要だが、今は1回使うと産業廃棄物として埋め立て処分される。これを再利用できれば素材としての「寿命」を延ばすことで価格を抑えられる可能性があるからだ。

   1961年に日本で開発された炭素繊維は、日本勢が一貫して先行し続ける有望分野。ただ、最近では中国が国家戦略として10社以上を参入させるなどしており、今後は世界的な競争が激しくなりそうだ。優位を保つには、複雑な形状の部品は作りにくいといった弱点をさらに克服する技術を開発する一方、量産やリサイクルなどによる価格競争力をいかに強めるかがポイントになりそうだ。

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