東京・池袋にあるサンシャイン国際水族館が、2010年9月1日いったん閉館した。最終日となった8月31日には、大勢のファンや夏休みの思い出づくりに訪れた親子連れなどで終日にぎわった。開館から32年、都心のオアシスとして親しまれてきた同水族館は、今度は「大人の癒しのスポット」として生まれ変わる。リニューアルオープンは1年後、11年夏を予定している。
人気の秘密は「大人の空間」
閉館の8月31日は、朝から最後までずっとサンシャイン水族館にいたという「WEB水族館」の館長・中村元さんに話を聞いた。全国の水族館をめぐってきた中村さんは、「新しくてとにかく大きいのが沖縄美ら海(ちゅらうみ)水族館、迫力のあるショーを見るなら鴨川シーワールド、日本の海のよさを感じられるのが新江ノ島水族館」など、タイプ別にオススメ水族館を挙げる。全国に100を超える水族館があるなかで、サンシャインはどんな水族館を目指すのか。
リニューアルのプロデュースも担当する中村さん。人気のある水族館の共通点は「大人の空間」だと分析する。美ら海水族館はジンベイザメが優雅に泳ぐ巨大水槽によって深海に潜り込んだような錯覚を起こす。水族館ではないが北海道の旭山動物園は、筒状の水槽をアザラシが上下に移動し、透明の水中トンネルの周りをペンギンが飛ぶように泳ぐ「行動展示」が、一番の名物となっている。
「本格的な展示は、子どもにももちろん好評です。サンシャイン国際水族館についても、大人が喜んで来てくれるような美しい『水塊(すいかい)』を作ります」
アクセスのよさが売り物のサンシャイン水族館。会社帰りにふらっと立ち寄れる癒やしスポットとしても期待が高まる。
たいへんなのは、生き物たちの引っ越し
サンシャイン水族館は、複合商業施設サンシャインシティの中、地上40メートルのビルの最上階・屋上にある。屋内外を合わせて敷地面積約7765 ㎡とコンパクトなスペースに、魚やペンギン、アシカのほか、陸上に住む小動物を含めた約750 種3万7000 点の生き物を展示してきた。
開業当時は都心にある水族館が珍しく、最盛期の85年はラッコで人気を集め170万人もの来場者があった。ところが、敷地面積が10倍以上の8万379㎡もある葛西臨海水族園(東京・江戸川区)や、同じく都心でアクセスがよく最新設備が整ったエプソン品川アクアスタジアム(港区)といったライバルの出現で、09年度には70万人にまで客足が落ち込んでいた。起死回生を狙った全面リニューアルは、78年の開業以来初の試みだ。
リニューアルは、スタッフが最も神経を使う生き物たちの搬出から始まる。海遊館(大阪)にラッコ2頭を、鳥羽水族館(三重)にバイカルアザラシ2頭を、葛西臨海水族園にはマンボウとマイワシの群れを預ける。ほかの生き物は、サンシャインシティ内の仮設スペースで飼育を続けながらオープンを待つ。ショーを行うアシカは工期中もトレーニングを続けるという。
水と緑あふれる庭園スペースも
素人からすると1年という休業期間はかなり長く感じるが、中村さんは、「非常に短い、珍しいケース」と話す。
「通常、施設の建て直しを伴う場合が多いので、最低でも2、3年はかかります」
サンシャイン水族館は建て替えがない分、短期間でのレイアウト変更が可能になったようだ。
だが、高層階にある水族館ならではの難しさもある。まず、ビル内にある他の施設に配慮し、工事は営業時間を避けた夜間の作業が中心となる。また、フロアにかかる重量制限やエレベーターでの搬入経路の都合で、他館が目玉にするジンベイザメやシャチなど大型生物の展示はできない。体長2メートル前後が限界だという。
こうした制約の中で、どこまで新鮮な印象を与えてくれるのだろう。不安をよそに広報担当者は、「都心の高層階というロケーションを生かし、『天空のオアシス』をコンセプトに進めています。屋外は水と緑あふれる庭園スペースに、屋内は曲面ガラスの水槽を取り入れ、まるで水中に立ったような気分になれる展示を行います」。
今とはまったく異なる空間になるという。