国際競争に揉まれる日本企業が語学力の向上を迫られている。小型モーターの開発・製造で世界シェアトップの日本電産が社員の昇進に外国語習得を義務付けることになった。2015年から課長代理以上の管理職の昇進には外国語1カ国語、20年からは部長級の昇進に2カ国語の習得が必要となる。
「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングや楽天が英語を社内の「公用語」にすると発表したが、日本電産は実質的に「英語プラス1カ国語」を部長昇進に課すというから、社員にとってはハードルが高い。
社内の英語公用語化に「理解に苦しむ」
だが、決算発表を社長自ら英語で行った楽天などとは異なり、日本電産は外国語をビジネスの道具と割り切っており、英語を社内の公用語にはしないと強調している。
日本電産の永守重信社長は会見で、楽天など日本企業が社内で英語を公用語とすることについて「理解に苦しむ。語学は外国人とのコミュニケーションで使うもので、日本人とは日本語が一番いい」と、苦言を呈した。同社が昇進に外国語を義務づける理由については「語学という手段がないと海外でものを売れない。イタリアに行ったらイタリア語、ハンガリーに行ったらハンガリー語を話しなさいということだ」と力説した。
永守氏は職業訓練大学校電気科を卒業し、1973年、28歳で京都市に日本電産を設立。積極的な海外展開で今日の同社を築いた「独自の経営哲学」をもつ社長として知られる。現在は世界28カ国・地域で事業を展開。同社の使用言語は英語、ドイツ語、フランス語、中国語はじめ、タイ語、ベトナム語など10カ国語以上にのぼる。管理職には海外取引先などとの交渉力が不可欠なことから、英語なら「TOEIC」、中国語なら「HSK」などの語学検定試験の結果で昇進を判断する。
約1700人の全社員にTOEICを受験させる
2010年11月には約1700人の全社員にTOEICを受験させるなど、管理職を問わず徹底して社員に英語習得を求めている。同社で生き残るには外国語のスキルアップが避けられそうにない。
他の企業では、ユニクロも、英語「公用語化」とはいえ、対象は全社員ではなく店長クラス以上の幹部に絞るとしており、日本電産とほぼ同じようだ。
楽天は、三木谷浩史社長が自ら会見や決算発表を英語でするなど、「英語公用語化」が一番徹底している。
このほか、日清食品ホールディングスは、TOEICやHSKで一定の成果を上げた、英語や中国語に堪能な若手社員を優先的に海外の現地法人に派遣する方針だ。国内市場が縮小する中、食品メーカーは中国やインド、ブラジルなど新興国市場に活路を見出しており、同社でも外国語に堪能な社員の育成が急務という。同社幹部は「将来的に取締役会を英語でやらなくてはならないかもしれない」と語っている。
日本でも日産自動車のように、社長自ら社員に英語で語りかけ、会議も英語という企業は、もはや珍しくない。日本企業が相次いで社員の語学力を強化するのは、グローバル化が進む日本企業の危機感の表れでもある。