円はどこまで上がるのか――。為替相場の動向が業績に直結する輸出企業ならずとも気になるところだが、政府・日銀の「無策」もあって、なかなか止まる気配がない。2010年8月26日の東京外国為替市場は1ドル84円半ばで推移。前日よりは円安だが、戦後最高値となった1995年4月の1ドル79円75銭を突破してしまいそうな気配が漂っている。
円高になると、外貨預金や外国為替証拠金(FX)取引ではドルを買う動きが増すが、それもタイミングが問題。今後さらに上がると予測すれば、もう少し様子を見ようと、つい思いとどまってしまう。専門家の中には、「1ドル60円」を突破する可能性もあるという。
物価水準では「1ドル57円」の試算
あるFX会社の幹部は、「10月くらいまでは80円前後で推移するでしょうが、中長期的には1ドル60円の突破も視野に入れる必要があるのではないでしょうか」と予測する。
理由は、日米の物価水準だ。その幹部の試算によると、超円高だった95年4月の米国の消費者物価指数(CPI)を100とすると、現在の米CPIは140になるという。一方、日本のCPIは95年から、ほぼ横ばい。「日米の物価水準からいえば、現在の水準は1ドル57円でもおかしくないんです」と説明する。
国際金融アナリストの枝川二郎氏も、「いつ1ドル80円を切ってもおかしくない」という。「95年の円高以降、日本がデフレに突入していることを考えると、円はいまの相場でもまだまだ安いです。デフレはモノの値段が下がり、通貨の価値が上がるということですから」と話す。
第一生命経済研究所・主席エコノミストの嶌峰義清氏も日米の物価水準に注目。自身の市場レポートで、「物価上昇率が米国でプラスなのに対して、日本はマイナス。日米の実質金利差は大きく、90年以降においては少なくとも日本の実質金利が米国を上回っている間は円高に歯止めがかかっていない」と、円高阻止がむずかしいことを指摘している。