1990年代に「渋谷系」と呼ばれた音楽の拠点ともなったCDショップ「HMV渋谷」(東京都渋谷区)が、2010年8月22日の営業を最後に閉店した。英国に本拠を置く音楽ソフト販売グループの国内1号店として90年にオープンして以来、20年の歴史に幕を閉じた。
背景にはインターネットを通じた音楽配信の隆盛のほかに、CDやDVDの通信販売市場が拡大し、街中でCDを売る「リアルショップ」の役割が薄れていることもある。
「アマゾン」などネット通販拡大も逆風
HMV渋谷のフロアは約2100平方メートルで、50店ほどある国内チェーンの中でも最大の旗艦店。オープン当初は「109」内に展開していたが、98年に「センター街」の現在地に移転した。
90年代には、「渋谷系」と呼ばれたピチカート・ファイヴや小沢健二といった、当時「とがった」都会的な日本の若手ポピュラー音楽の発信地ともなった。売りたいCDを店頭に目立つように置くだけでなく、イベントスペースを設けてアーティストとファンが直接触れあう形の販売促進活動を展開する手法も、当時としては斬新な「HMV流」の特徴だったとされる。黒とピンクを基調とした独特の店内の雰囲気や、洋楽の動向に精通した店員なども渋谷に集まる若者たちを引きつけたようだ。
しかし、その「聖地」もインターネットの波には逆らえなかった。日本レコード協会によると、CDの生産量、生産額はHMV渋谷が今の場所に移転した98年をピークに減少し、2009年まで11年連続で前年割れだ。09年の生産額はピークの約4割にあたる2460億円にまで落ち込んだ。
CDの販売落ち込みに加えて「アマゾン」などによるネット通販の拡大もCDリアルショップには逆風で、日本レコード商業組合によると、09年末のCD販売店数は830店とピークの92年の約4分の1にまで減った。
米国系のタワーレコードは都心に出店
他方で、ネット音楽配信市場は09年に909億円と各社が配信を一斉に始めた05年から3倍近く伸びている。ただ、足元では伸びが鈍化しており、業界では「少子化の影響だけでなく、若者が音楽ソフトにお金をかけなくなっている」との悲鳴も聞かれる。
こうした中でHMVジャパンは「渋谷」などコストのかかる都心店を閉め、ネット通販にシフトして生き残りを図る。「新星堂」や「WAVE」といった他のリアル店舗勢も経営が悪化し、リストラを余儀なくされているのが実情だ。「TSUTAYA」を展開し、音楽CD販売最大手のカルチュア・コンビエンス・クラブ(CCC)も、売り場縮小を検討している。
こんな中、都心部出店の「逆バリ」に出ているのが、米国系のタワーレコード。2008年にJR東京駅に小型店をオープンさせ、10年秋にも小規模な店舗を複数出店する。タワレコは「店内での実演など、ネットでは味わえない楽しみを提供したい」としている。新人アーティスト発掘オーディションなどの「仕掛け」も用意しており、リアルショップの盛り返しができるか、成果が注目されている。