菅直人首相は、今まで自分が「自衛隊の最高指揮官」だと知らなかったのか――自衛隊幹部との会合での菅首相発言に注目が集まっている。「冗談」だとかばう声もあるが、文民統制(シビリアンコントロール)について理解できていないのでは、との懸念も出ている。
「(安保問題について)勉強しましょう」。こう菅首相に注文を出したのは、毎日新聞の与良正男論説委員だ。2010年8月20日、情報番組「みのもんたの朝ズバッ!」(TBS系)で発言した。
「改めて調べてみたら最高指揮官」
与良氏の指摘は、8月19日にあった自衛隊の折木良一統合幕僚長ら4幕僚長との会合での菅首相発言を受けたものだ。与良氏は、菅首相について「(安保・外交政策について)今までほとんど携わってない」と懸念を示した。
菅首相は19日、「制服組」トップらとの意見交換が始まる前、北沢俊美防衛相に「昨日事前に予習しましたら(防衛)大臣は自衛官ではないんだそうですね」と笑顔で話しかけた。
さらに、会談のあいさつでは「改めて法律を調べてみたら(総理大臣は)自衛隊に対する最高の指揮監督権を有すると規定されている」とも述べた。
会合後、折木統幕長は、首相発言について、「冗談だと思う」と「かばった」形だが、痛烈な皮肉だと受け取れなくもない。
ちなみに、中学「公民」や高校「新政治経済」などの教科書を出版している清水書院(東京)編集部によると、高校用教科書には、国務大臣は文民でなければならないと憲法で定められていることや自衛隊の文民統制などについて約1ページを使って詳しく説明されているという。
翌20日付の新聞朝刊では、「これまで、そうした自覚がなかったと受け取られかねない発言だ」(朝日)、「政府内からは『首相は文民統制を理解していないのではないか』との声も出た」(読売)などと報じられた。
「隊員たちは気にしてないと思いますよ」
「そんな馬鹿な?」。レバノンなどを視察中の佐藤正久参院議員(自民党)は、8月20日、ツイッター(Twitter)で首相発言について驚きの声を挙げた。佐藤議員は、自衛隊イラク復興業務支援活動時の「ひげの隊長」として知られる。
首相発言に最初は耳を疑った佐藤議員だが、分析してみると、菅首相が冗談を言っているのではなく、本当に知らなかった可能性について、「それはあり得る」と指摘、「おそらく文民統制の意味が分かっていない!」「総理は、自衛官と自衛隊員の違いも知らないだろう」との疑念も表明した。
ある自民党関係者は、今回の首相発言について「安保政策で真逆の主張をする人たちがいる民主党は、首相に限らずこの分野は不勉強な議員が多い印象だ。党の体質ではないか」と批判した。
一方、「田母神俊雄の人生論 めざすは日本人」(高木書房)の著者で航空幕僚長も務めた田母神俊雄さんに話をきくと、「目くじらを立てる話ではない」との見方を示した。田母神さんは、08年に「日本は侵略国家ではない」と主張する論文を巡り更迭され、直後に定年退職した。
「菅さんとは何度も会って話したことがある。首相が最高指揮官だとは知っていたと思う。言葉のあやでしょう」
「隊員たちは気にしてないと思いますよ」
菅首相は、10年7月の参院選前に消費税増税議論について言及したことについて、参院敗戦後に「不用意な発言により厳しい選挙を強いることになった」と「反省」の弁を述べていた。今回の文民統制関連発言が仮に冗談だとしても、十分練られたものとはいいがたく、やはり「不用意」な印象は免れないようだ。