「電子教科書」巡りホットな論争 子どもの人格形成ゆがめるか

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   2010年が「電子書籍元年」と言われるなか、電子端末を小中学生に配って「電子教科書」として利用する構想が本格化しつつある。電子教科書で映像などを活用し、学習効果が上がるとする見方もある一方、「人格形成にゆがみが生じる」などとする慎重論も根強い。

   電子教科書は、教員が「電子黒板」などの大型モニターに文字などを映す「指導用」と、生徒に1台ずつ配布する「学習者用」に分かれ、電子黒板については、すでにある程度普及している。今回議論になっているのは「学習者用」端末のあり方だ。

   政府は、10年6月に策定した「新成長戦略」などで、全生徒・児童に学習者用の端末を配布する方針をすでに決めており、11年度には一部の小中学校で、電子教科書を活用した実証実験を始める方針だ。文科省では実証実験の結果を踏まえて、20年までに、端末を1人1台ずつ配布したい考えだ。だが、民間は、さらにペースアップを求めている。

   7月27日には、マイクロソフト(MS)やソフトバンクなどのIT関連企業や出版社約70社でつくる電子教科書の推進団体「デジタル教科書教材協議会」が発足。協議会の会長を務める小宮山宏・三菱総合研究所理事長は、「世界の取り組みが進む中、ピッチを上げないと間に合わない」などとして15年までに全国の小中学校に普及させたい考えを強調した。

柳田邦男氏や田原総一朗氏が異論

   だが、これに「待った」をかける声も根強い。例えば8月中旬には、ノンフィクション作家の柳田邦男氏が、

「学校教育のデジタル化 子どもの人格形成を阻害」

などと題した文章を地方紙各紙に寄稿。電子端末が配布されることを「教育の公共事業化とさえいえる」などと指摘した上で、ゲーム等の影響で親子や友達との接触が減っていることを念頭に、

「ついに学校でまで、かけがえのない人間形成期の子どもたちが多くの時間を電子機器とばかり向き合う時代になった時、ゲーム感覚そのままに、自己中心で勝ち抜くことばかりを考える人間を生み出すことにならないか、今こそ教育現場で議論すべきだ」

と主張。ソフトバンクの孫正義社長が「推進派」として影響力を持っていることについては、

「成功者の迫力と財力を基盤にした政官学巻き込みの活動だ」

と、強い調子で批判を展開している。

   ジャーナリストの田原総一朗氏も、反対論者だ。田原氏はツイッター上で、ネットを通じたコミュニケーションが拡大し、既存メディアのシェアが下がることについては「大肯定」としながらも、現状の日本の教育は「正解のある問題を解くことしか教えません」と指摘。その上で、

「教育とはコミュニケーション能力や想像力を高めることです。電子教科書は検索で答えを引き出す事が出来、自己完結型になってしまいます。今の教育のまま電子教科書を導入すると教育の欠陥が助長される事になってしまいます」

と、今の状態で電子教科書を導入することの弊害を説いた。また、田原氏は、8月27日、「デジタル教育は日本を滅ぼす」(ポプラ社)と題する書籍を発売することになっている。

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