日本で活動している韓国の映画監督、崔洋一さん(61)が、NHKの討論番組で、韓国併合を肯定するなら歴史を語る資格はない、と別の発言者を批判して波紋を呼んでいる。番組は、未来志向の趣旨だったようだが、逆に日韓両国の溝の深さを浮き彫りにした。
きっかけは、「アニオタ保守本流」というブログを書いているウェブデザイナーの古屋さん(27)が、自説を展開したことだった。
京大准教授「権力者の言論封鎖はいけない」
NHKで2010年8月14日に3時間近く放送された「日本の、これから ともに語ろう日韓の未来」。そこで、日本側の一般市民として選ばれた古屋さんは、韓国と日本は、同じ大日本帝国の一員だったとして、一緒に英米と戦った戦友だと主張した。韓国併合のときは、韓国人を虐殺したわけではなく、帝国主義の時代でやむを得ずにやっただけだともした。
これに対し、崔洋一さんは、そうしたイデオロギーが日本を支配していたのは認めたものの、そのために韓国併合があったというのは、とんでもない史観だと指弾。そして、顔を紅潮させながら、次のように語気を強めたのだ。
「36年間にわたる植民地支配がそれによって肯定されるという考え方は、基本的に歴史を語る資格がない!」
番組司会者は、慌てて話題を変えたが、そこに口を挟んだのが、京大准教授の小倉紀蔵さんだ。崔さんのこの発言は間違いだとして、歴史にはどんな考え方もありうると指摘した。正さないといけないのは、間違った事実に基づいて自分の歴史観を構築したときだけだ、というのだ。
すかさず、崔さんは、韓国併合には、客観的な歴史的事実があるとして、それを歪めることは間違っていると否定するのが大人の責任だと反論した。小倉さんも、権力者の言論封鎖はいけないと言い返し、議論は平行線のまま終わった。
NHKに電話やメール約1800件が殺到
崔洋一さんの主張について、ネット上では、理解を示す声もあったものの、異論も噴出している。2ちゃんねるでは、スレッドが乱立する祭り状態になっており、「映画監督が言論封殺しようとするとはw」「なら討論番組に出るな」「自分自身の首を絞める事になる発言」といった書き込みが相次いでいる。
NHKの広報局によると、番組への電話やメールは、2010年8月16日夕までに約1800件にも達しているという。
崔さんの怒りを買った古屋さんは、自らのブログで、番組には編集でカットされた別の部分があることを明らかにした。
それによると、日本側出演者の1人が、日本と韓国は過去に恋人関係にあり、日本が浮気したから韓国が怒っているなどと発言。会場内では受けたものの、崔さんが「歴史とはそいういうものでない! 君はこの場所に一番場違いな人間だ!」と烈火のごとく怒ったという。
また、古屋さんは、2ちゃんでも質問を受け付けたといい、そのスレでは、件の「歴史を語る資格なし」発言は、この「場違い」発言の直後にあったと言っている。怒りモードのまま、矛先が古屋さんに向けられたというわけだ。
この場面のカットについては、崔さんが切れすぎたためテレビ的にNGだったのではと言う。ただ、NHKは変わってきており、番組ディレクターは、中道保守的でネット言論にも理解があったとする。そして、古屋さんは、その証拠に「資格なし」発言が放送されたとして、「日本人に不利な編集はしてません」と断言した。もともとは、5時間の録画だったという。
NHKでは、取材に対し、「番組の編集に関わることについては、お答えしておりません」とコメントしている。