2010年のサッカーワールドカップで日本がベスト16に進出し、だれもが日本サッカー界の歴史が塗り替わったことに興奮した。日本は変わったのだろうか。そして未来を見出せたのだろうか――。スポーツジャーナリストの木崎伸也さんに聞いた。
――世界は日本をどう評価したのでしょうか。
木崎 カメルーン戦、オランダ戦、パラグアイ戦はさっぱりでした。例えば、カメルーン戦におけるドイツの実況は、「ひどい内容」「ミスだらけ」「アイデアがない」と厳しい調子でした。守備ばかりに徹し、臆病なサッカーだったからです。
岡田監督が採用したのは弱者の戦術だった
ところがデンマーク戦だけは違います。スペインの解説者は「日本は良いプレーをしている。ブラジルのようだ」と絶賛し、ブラジル紙は「サッカーの国になった」とたたえています。デンマーク戦は積極的な攻めが指示され、選手は前へ前へと攻め上がり、自分の良さを出そうとプレーしていました。
――ほめられたのはデンマーク戦だけだったのですね。
木崎 岡田武史監督がとった戦法は、守備を固め、相手のミスを待つカウンター狙いでした。いわば弱者の戦い方です。直前の親善試合で負けが続き、それでもW杯を勝ち抜くため、本来目指していたパスをつなぐ攻撃的なサッカーから失点しないことを重視する守備サッカーへ切り替えました。
大会の1か月前に戦術を変えるのは非常に稀です。準備期間は短かったし、ふつうはうまくいきませんが、今大会は非常に守備が機能していました。これは選手たちがJリーグで鍛えられているから。ふだんから守備の組織を意識し、緻密な戦術に取り組んできた成果です。Jリーグのレベルがあがっていたと感じました。
――日本の戦いぶりをどう見ましたか。
木崎 守備の対応力には目を見張るものがありましたが、攻撃の組織には課題が残ったと思います。14年前、アトランタ五輪のグループリーグ初戦で日本がブラジルを倒した試合(=マイアミの奇跡)がありました。実はこの時も、守りを固め、相手のミスを待つサッカーでした。
だから、14年前にもできた戦い方を今回も繰り返したと思うと、正直なところ、14年間の日本の積み重ねはなんだったのか、とも思いました。欲を言えば、もう少しいいサッカーができたのではないか、と。現地で会った日本サッカーの関係者の中にも少なからず、日本サッカーはもっとできるはずなのにもったいない、といった悔しい声は聞いています。