宮崎県で猛威を振るった家畜伝染病・口蹄疫(こうていえき)は、県が「非常事態宣言」を2010年7月末に解除したことで、地元に安心感が広がり、県民生活にも活気が戻りつつある。8月9日まで実施した県の牛や豚全頭の清浄性確認調査でも異常は見つからず、27日に「終息宣言」が出るのは確実だ。
非常事態宣言解除を受け、旅行各社が宮崎ツアーを大々的に売り出すなど、支援の動きも加速、復興に向けた取り組みが動き出した。
宮崎市が緊急の観光キャンペーン始める
宮崎県の被害義援金呼びかけに対し、8月9日現在で、全国から総額30億5750万円が寄せられているという。口蹄疫対策を含む県の財源になる「ふるさと納税」の2010年分も3日現在、1億2535万円と昨年の30倍以上に跳ね上がっていてる。
著名人の動きも活発で、宮崎市在住のプロゴルファー、横峯さくらさんが、5月の試合の獲得賞金1200万円を寄付し、ゴルフの大会で募金も呼びかけるなどしているほか、宮崎県日向市出身のバレエダンサー、西島千博さんは義援金300万円を寄付。宮崎で毎年春にキャンプをするプロ野球の巨人も「がんばれ宮崎」として、東京ドームに募金箱を設置したり、野球用具などをインターネットオークションに出品して収益を寄付するなどしている。
こうした動きに呼応するように、地元も本格的に復興に動き始めた。宮崎市は10日、緊急の観光キャンペーンを始めた。口蹄疫の影響で市の観光客は激減、4月末から1カ月間で計1万3000人余りが宿泊をキャ ンセルしたという。キャンペーンはこうした苦境を打開し、宮崎の基幹産業の一つである観光業の回復を図ろうという試みだ。
対象の施設に宿泊すると、5000円以上の宿泊者に3000円分の「みやざき元気券」などをプレゼント。元気券は市内の飲食店やタクシー利用の際などに使うことができる。市は新たなマスコットキャラクター「ミッシちゃん」も作製し、観光客の呼び込みに力を入れる。
優秀な種牛失い、「畜産農家の再建は早くて3年」
民間の支援活動も拡大している。JR九州は16日から「宮崎応援キャンペーン」を展開する計画だ。各駅や車内に「宮崎へ行こう!」と呼びかけるポスターを掲示するとともに、格安旅行プランを発売。博多発で九州新幹線を経由するツアーの場合、2枚きっぷ(1万9000円)にワンコイン(500円)を加えれば1泊2食付きになるという「これまでにない割引」という。
日本航空は「宮崎のブランドイメージの回復と観光需要の創出を」として、「がんばろう!宮崎」と銘打った応援サイトを開設し、さまざまな宮崎ツアーを企画する。全日空も各種ツアーを設定し、宮崎への誘客を図る。
一方、宮崎県弁護士会やNPOなどは、復興の取り組みを側面から支えるため、県口蹄疫被害復興ボランティア支援団体連絡協議会を結成した。復興のためにさまざまな活動を展開するボランティアなどを財政的に支援しようとの動きだ。宮崎には全国各地から多くの義援金も寄せられており、県NPO活動支援センターは寄付を活用して、口蹄疫の影響で厳しい経済状況にある家庭の子供に1世帯3万円の奨学金を給付する活動を始めた。畜産農家だけでなく、収入が激減した自営業者や会社員の家庭も対象にする。
周囲からの支援も得て、何とか立ち直ろうとする宮崎。ただ県が10日発表した試算によると、口蹄疫による県全体の畜産や観光などの被害額は今後5年間で計2350億円に上る見込みという。牛や豚を育てるのは息の長い営みで、今回は多くの優秀な種牛まで失っただけに、「畜産農家の再建は早くて3年はかかる」(関係者)ともいわれる。家畜の殺処分で被害を受けた農家への全額補償などを盛り込んだ特別措置法はできたが、畜産・宮崎の本格的な復興を国・県がどう力を合わせて進めるかはまだ不透明だが、息長い支援の取り組みが必要のようだ。