記録上は100歳以上だが所在が確認できない人が続々判明している。一方で「100歳未満も調査しないと解決にならない」「100歳未満の不明者も多数いるはず」と指摘する識者の声も大きくなっている。
100歳以上の所在不明者は、新たに神戸市で105人が判明するなど全国で187人――。2010年8月11日の情報番組「みのもんたの朝ズバッ!」(TBS系)はこうした数字を伝え、司会のみのもんたさんは「まだ増えるんでしょうね」と懸念を示した。
全件チェックしないと解決にならない
不明「100歳以上」が続出する事態を受け、厚労省は、長妻昭大臣を長とする「高齢者所在不明・孤立化防止対策チーム」を8月5日に立ち上げた。
また同省は、日本年金機構に対し、市町村と連絡を取りながら、市町村に調査予定がなかったり調査に時間がかかったりする場合は、110歳以上の年金受給者について、機構職員が面談調査をするよう指示を出した。110歳以上の年金受給者は、概ね50~100人とみられる。
不明高齢者について、連日のように各自治体の独自調査結果が発表されているが、対象は「100歳以上」だ。なぜ100歳以上なのか。疑問の声が出ている。
「99歳以下のところも全件チェックしないと解決にならない」。8月11日の「朝ズバッ!」の中で、一橋大の高山憲之特任教授(年金研究)はこう提言した。年金受給者のうち「100歳以上は少ない」とし、「100歳未満の方が死亡者の年金を家族らが受給し続けているケースが多い」と指摘した。
年金の「老齢給付」を受けている人は、約3360万人(10年3月末)で、100歳以上の人数(無年金者含む)は4万399人(09年9月1日現在、厚労省)なので、単純計算で約0.1%だ。高山特任教授の指摘通り「少ない」割合だ。
片山元知事「役所は怠慢だ」
死亡した家族の年金を不正受給して逮捕・送検された例は、07年11月以降の新聞記事をざっと検索しただけでも、少なくとも7件以上ある。それ以前に逮捕された裁判記事もあるが、「100歳以上」が絡むのはレアケースだ。
「100歳で(調査を)区切るのではなく、90歳以上、男は80歳以上で一気に調査をやらないと厚労省の対応は不十分だ」。白鴎大の福岡政行教授(政治学)も、8月9日の「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日系)でこう述べた。調査対象が100歳以上だけでは、年金不正受給問題などの解決にはつながらない、という認識はかなり広まりつつあるようだ。ある行政書士は、J-CASTニュースの取材に対し、相続絡みの仕事をする中で「80歳以上の所在不明者は相当数いるはず」と感じていると語った。
一方で、自治体の側からは、調査対象を広げると業務が膨大になりすぎ、費用もかかるため事実上無理だ、との声も上がる。個人情報保護法による「壁」を指摘する向きもある。
しかし、片山善博・元鳥取県知事は、こうした指摘について「言い訳だ。役所の怠慢」と切り捨てた。8月11日の「朝ズバッ!」で、「(調査対象を広げる)金がないというが、使い方の優先順位を間違っている」と断罪した。個人情報保護の関連でも、役所が外部にもらすのが問題なのであって、「目的外利用の禁止」を調査できない理由として持ち出すのは「怠慢」だとの考えを示した。
総務省の人口推計(09年10月)によると、80歳以上100歳未満は785万1000人だ。現在、100歳以上が約4万人(厚労省調査)で不明者が187人(朝ズバ)とすると、その割合は0.46%。仮に80歳以上100歳未満の人の中に、100歳以上の人の場合の「10分の1」の割合で不明者がいたと大胆に仮定すると、「不明者」は3600人超となる。
厚労省は10年6月から、一定の条件の85歳以上の年金受給者について、不正受給がないかサンプリング調査をしており、近く結果をまとめる予定だ。