就職できない大学新卒者があふれ、その理由を巡って論議になっている。台風の目になっているのが、日本の新卒一括採用システムだ。これがいいか悪いかで、見方が分かれているのだ。
論議のきっかけは、読売新聞が2010年8月6日付朝刊トップで、大卒の2割が就職しなかったと報じたことだった。
茂木健一郎さん「合理性欠く」
記事によると、文科省の学校基本調査で、10年3月に大学を卒業したものの、進路未定の新卒者が10万人以上もいた。私立文系男子で特に目立ち、アルバイトや派遣社員になったのも、その1割ほど。多くが宙に浮いた状態だった。
就職できなかった理由が多いとみられる留年者も、10万人以上いたのも衝撃的だった。
「思うところあり」。このニュースにツイッターで口火を切ったのが、脳科学者の茂木健一郎さんだ。
茂木さんは、日本の就活について、新卒一括採用は、「経営的に合理性を欠く愚行だ」と批判した。それは、既存のレール以外のところに優秀な人がおり、結果として企業が多様な人材をそろえられないからだと述べる。ものづくりよりネットワークづくりが中心になった時代に合わず、むしろ新卒という縛りを外して通年で人材採用すべきだと主張している。
就職しなかった2割の人に、もっと希望を託すべきで、マスコミがこうした事態を異常とみなさないようにも訴えた。
茂木さんのこのつぶやきには、若者らを中心に賛同する声が相次ぎ、まとめサイトもできている。
元ライブドア社長の堀江貴文さんも、ツイッターで「全面同意」を示し、社長時代も新卒採用制度がなかったことを明らかにした。また、神戸女学院大教授の内田樹さんも、自らのブログで同意見だとし、大学3年の夏から、先の読めない就活の不安に巻き込み、才能の芽をつぶしていると、疑問を呈している。
「企業の5割までが一括採用賛成」の調査も
一方、大学生の就職難については、新卒一括採用より外に理由を求める意見もある。
経済学者の池田信夫さんは、自らのブログ(http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51465063.html)で、大学が増えすぎて、学生の質が落ちたことが原因だとの見方を示した。少子化による定員割れを防ごうと、AO入試や推薦入学で半分ほども学生を入れてしまったツケが来たというのだ。
池田さんは、大学増設を進めた教育行政が悪いと指摘。言論サイト「アゴラ」(http://news.livedoor.com/article/detail/4933075/)では、会社内で様々な技能や忠誠心を養えるとして、「新卒一括採用は合理的である」との見方も紹介した。
ブログでの主張については、若者らから、大卒を減らしても高卒が就職に困るだけという異論も寄せられている。しかし、池田さんはコメント欄で、専門学校で人手不足の介護などを学べば就職に困ることはない、と反論している。
大妻女子大准教授の齊藤豊さんも、アゴラで、企業のアイデンティティが維持できるなどと新卒一括採用に好意的な見方を示した。1990年代半ばまであった就職協定を復活させることも一案だとしている。また、派遣プログラマーというブロガーは、「nonomachon2ndの日記」で、一括採用がなくなれば経験者と同じ土俵に乗せられるとして、「一番困るのは当の若者だ」と主張した。
実際の企業は、一括採用についてどう考えているのか。
コンサルティング会社「レジェンダ・コーポレーション」の調べによると、一括採用について、人事担当者の5割までが賛成と答えた。反対は、せいぜい1割強だった。賛成の理由については、「自社の企業文化を一括で育成できる」「効率的」などの回答が多かった。企業の意識としては、一括採用そのものを変えるところまでいっていないのが現状のようだ。