時速60キロで走行中、前方車両に近づくとアクセルペダルを戻して減速し、5メートル以内に近づくと急ブレーキをかけて自動停止するという「衝突回避支援システム」を日産自動車が開発した。日産は「早期の実用化を目指す」としており、早ければ2011年にも市販車に搭載する見通しだ。
自動車が前方車両や障害物を発見して自動停止するシステムは、富士重工がスバルレガシィで既に実用化しており、海外のライバルメーカーに差をつける日本車の「切り札」として期待されている。
接近すると、警告音とともにアクセルペダルが戻る
日産のシステムは、高感度のレーダーが前方車両との距離を常時計測。時速60キロで約60メートルまで接近すると、警告音とともにアクセルペダルを戻してドライバーに減速を促す。それでも減速が足りず、先行車に5メートルまで接近した場合、時速35キロ以下の速度域であれば自動的に急ブレーキがかかり、自動停止するという。
日産は車両前部に設置したレーダーのセンサーが、車速に応じて前方車両との車間距離を一定に保つ「車間自動制御システム」を既に実用化しており、新システムはその進化版と言える。新技術は時速60キロという一般道の実用スピードから制御が始まるのが特徴で、時速35キロまで減速した後は自動停止で衝突を回避する点が新しい。
先行する富士重工がレガシィで既に実用化しているのは「新型アイサイト」と呼ばれる運転支援システムで、センサーが危険を感知すると車を自動的に停止させる点は日産と基本的に同じだ。新型アイサイトはステレオカメラが常時、前方の状況を立体的に監視。先行車や障害物に衝突する危険をシステムが認識すると、警告音とメーター表示でドライバーに注意喚起するが、自車と対象物の速度差が時速約30キロ以下の状況では自動的にブレーキをかけて停止する。時速30キロを超える状況では、自動ブレーキをかけて衝突被害の軽減を図るという。
「手放し・足放し運転」も技術的には可能
富士重工は「世界で初めて」というステレオカメラを用いた先進技術で、先行車だけでなく、歩行者や自転車など前方の道路情報を認識し、能動的に衝突を回避する機能を実現した。富士重工は「高速道路など先行車の減速幅が大きい状況でも対応が可能で、先行車が停止した場合、自車を停止させたうえ停止状態を維持することで、渋滞時の運転負荷を軽減することも可能だ」と説明している。高速道路で居眠り運転による追突を回避するだけでなく、渋滞時には「自動運転」に近い威力を発揮するというわけだ。
自動車業界関係者によると、先行車との車間距離や走行車線を維持したり、歩行者などを発見して自動停止したりする制御システムを応用すれば、自動車はロボットによる自動運転に近づき、将来的には「手放し・足放し運転」も技術的には可能になるという。
中国やインドなど新興国の台頭で自動車市場は競争が激化しているが、日本メーカーはハイブリッドなどエコカーだけでなく、衝突回避や自動運転の制御システムでも世界をリードしており、生き残りをかけ実用化が進むのは確実だ。