米グーグルが、大手通信業者とコンテンツの優先的な配信をめぐって交渉を進めていると報じられた。グーグルが業者に割増料金を支払い、コンテンツの配信速度を上げることでより早くユーザーに届ける内容だという。
実はグーグルは、ネットに流れる情報は量や中身にかかわらず公平に扱うよう通信業者に求めてきた「張本人」。報道内容は、グーグルが立ち位置を転換したことを意味する。真偽のほどはどうなのか。
2社とも交渉を否定
ニューヨークタイムズ電子版(NYT)は2010年8月4日、グーグルと米通信大手ベライゾンの「交渉」について伝えた。グーグルがベライゾンに料金を支払うことで、コンテンツの伝送スピードを上げる「優遇措置」をとってもらおうとの話だ。例えばグーグルが運営する動画投稿サイト「ユーチューブ」の動画を、競合サイトに比べて高速でユーザーに届けられるようにする。記事では、匿名の関係者の話として「交渉は8月8日の週前半にもまとまる可能性がある」と踏み込んでいる。
グーグル、ベライゾン両社とも、記事内容を早々に否定した。グーグルはツイッターに、「NYTの記事は誤報。当社はベライゾンと、トラフィック(ネットワークを流れる情報)伝送で料金を支払う話はしていない。当社では今もオープンなネットの実現を目指す立場である」と投稿した。ベライゾンも、自社のブログで「グーグルと当社の交渉に関するNYTの記事は間違っている」と強調した。
グーグルが特定の通信業者に対して、自社の利益を優先させるような「密約」を交わしたとすれば、実に具合が悪い。というのは、グーグルは「ネットの中立性」を先頭に立って求めているからだ。ネットの中立性とは、トラフィックを規模の大小で差別しないという考え方。例えば、動画のストリーミングや電話など、ネットワークに大きな負荷がかかるトラフィックを遮断したり、低速度で伝送したりしないよう通信業者に対して求めるものだ。料金についても同様に「平等」を主張する。グーグルのほか、ネット電話事業のスカイプ、SNSのフェースブック、アマゾンなどが同調している。
方針を180度転換?
だが、通信事業者にとっては厄介だ。この考え方だと、大量かつ「重たい」コンテンツを流してネットワークを「占拠」する相手でも、接続料は他と変わらないからだ。トラフィックの増大でネットワークが混雑すれば、他のユーザーにも影響を及ぼすため、設備の増強を迫られる。だからといって、大量コンテンツを流す顧客から追加料金は徴収できない。
米国では実際に争いがある。通信事業者コムキャストが、他のユーザーに不利益になるとして一部トラフィックを制御したことに、米連邦通信委員会(FCC)が08年に「違法」だと認定、妨害行為の禁止を求めた。ところが09年4月、米連邦控訴裁判所は、FCCにはこのような権限がないとしたのだ。ネットの中立性を進めたFCCの判断が「無効」となった格好で、グーグルをはじめとした推進派には打撃となった。
仮にNYTの報道が正しければ、グーグルは方針を180度転換、平等な扱いを諦めて、通信業者からコンテンツ配信の「優先権」をカネで買うことで決着を図ろうとしているように見える。米国メディアでは、NYTに追従する形でこのニュースを流した。米ブログメディア「ハフィントンポスト」には、
「仮に記事が間違っていたとしても、グーグルは消費者から怒りのメッセージを受け取って慌てたに違いない」
「この契約が誰にも知られず進められたら、例えるなら図書館で、企業に操作された情報は本棚の探しやすい場所に配置されるが、その他は手の届かない隅に追いやられるようなものだ」
と、グーグルに対して疑惑の目を向けるコメントが並んだ。ネットの中立性の実現については消費者の間でも賛否両論あるようだが、このまま本当に契約が結ばれたとしたら、少なくともグーグルが自社の主張を曲げて「裏切った」と見られる恐れはある。