戸籍上は100歳を超えているお年寄りを調べてみると、実は生死不明のケースが続々判明している。背景には「親の生死にすら無関心」な家族関係がありそうだ。「長寿社会」日本の「裏の顔」の寒々しい現状が浮き彫りになってきた。
「100歳以上 不明18人」(毎日)、「100歳以上 所在不明15人」(読売)など、2010年8月4日付の各紙朝刊は、戸籍上「長寿」となっているが、実は生死の確認が取れないケースが相次いで見つかっていると報じている。
「40年ほど(親と)連絡を取っていない」
高齢者の生死を確認する契機となったのは、東京都足立区の111歳とされていた男性とみられるミイラ化遺体が発見されたことだ。しかし、年金詐取の疑いも絡み特殊な例とみられるこの「ミイラ」事件よりある意味ショックを与えたのは、次に発覚した、東京都内「最高齢」の113歳女性所在不明事案だ。
この「113歳」女性と記録上同居しているはずだった杉並区の長女(79)は、「弟と一緒に住んでいるはず」といい、1990年ごろから約20年も音信不通状態だと明かしたのだ。
その後、弟(次男、71)に警察が連絡をとると、この男性は「一緒に暮らしていたが、20~30年前に母親が出て行っていなくなった」と話したという。次女(74)も兄弟と「40年ほど連絡を取っていない」と話し、母の所在も知らないと説明した。長男は死亡したとされる。
もっとも、兄弟らの発言にははっきりしない部分もあり、「113歳」女性へ遺族扶助料(現行の遺族共済年金)が振り込まれていた、との報道も出てきた。いずれにせよ、「113歳」女性の3人の子どもたちは、かなり長期間、母の生死を確認していなかったことになる。
「そんなバカな。これも特殊な例だ」「年金(遺族扶助料)絡みの話ではないか」。そう思った人も少なくなさそうだが、親の生死に無関心そうな事例が次々に発覚している。「東京の105歳が不明 家族は『数年前に出て行ったきりどこにいるか分からない』」(朝日)、「神奈川の104歳が不明 家族は『もともと家を出てはふらっと帰って来る人で、生死も分からない』」(毎日)、「愛知の106歳が不明 登録された住所は更地になっている上、親族も所在を把握していなかった」(産経)などだ。
死亡した家族の年金詐取事件が相次いでいることは、J-CASTニュース「『死者の年金』に群がる人々 不正受給発覚は氷山の一角」(10年7月30日)でも指摘したが、年金絡みではないケースも少なくなさそうだ。
80歳以上で調べても、相当数の不明者が出てきそう
「高齢の親の生死を知らない人が少なからずいる、というニュースを見て、やっぱりな、と思いました」。カウンセリングルーム立川(東京)の代表で、法務行政書士事務所も開いている坂田雅彦さん(54)は、一連の高齢者不明事案の報道を聞いても驚かなかったそうだ。
仕事がら相続に絡む相談も多い。ある時点で改めて親戚や兄弟、両親などの所在を確認しようとすると、高齢者の場合、書類上の住所にはおらず、追跡調査をしても所在が分からない例が「結構ある」。互いに長期間連絡を取り合っておらず、関係が極めて希薄な家族が増えつつあると肌で感じていた。
最初に「おやっ」と思ったのは約30年前で、以降はどんどん希薄化が進んでいる気がする。最近の経済状況悪化は、相手を気遣う余裕を失わせ、事態を加速させているとも感じていた。
坂田さんは、生死が不明の高齢者は、今問題となっている100歳以上だけではなく、「80歳以上で調べても、相当数の不明者が確認されるのではないか」と懸念している。大阪で起きた幼い2児虐待死事件のニュースを見ながら、家族関係の希薄化という点で「高齢者不明のニュースとつながっているように思えてなりません」。
厚生労働省は、全国の110歳以上の年金受給者を対象に対面調査を実施する方針を決めている。対象は100人未満となる見通し。100歳以上は、同省高齢者支援課によると、09年9月1日現在で4万399人。90歳以上100歳未満は、総務省統計局の人口推計によると、09年10月1日現在、128万3000人となっている。