参院選挙で民主党が敗北し、日銀の金融政策への政治圧力が強まる気配だ。特に、躍進したみんなの党は消費者物価の上昇率を金融政策の目標として定める「インフレ目標」を導入する法制定を訴えており、日銀は心中穏やかでない。
もともと、民主党、特に菅直人首相はデフレ脱却に向けて日銀の一層の努力を期待する空気が強い。
民主党、自民党にもインフレ目標支持の声
菅氏は副総理兼財務相だった2010年4月、「(インフレ目標は)魅力的な政策と感じている」として、「プラス2%程度を実質的な意味での目標とし、達成するまで日銀としても努力していただく」とまで述べた「前歴」がある。民主党代表就任に向けた政見でも「日銀と協力してデフレ脱却に取り組む」と強調していた。
みんなの党はもっと過激だ。インフレ目標導入へ日銀法改正を訴えるだけでなく、日銀総裁の解任権を含め政府の日銀への権限を強める主張もしている。中央銀行の独立性を侵害するという意味で、「かなり危うい主張」(エコノミスト)だといえる。
もちろん、「目標を立ててデフレから脱却できれば苦労しない」(日銀元幹部)。仮にインフレ目標が導入されれば、目標達成のため、国債の買い入れの拡大にとどまらず、国債の直接引き受けや中小を含む企業向け融資債権の買い取り、果ては企業の株大量購入など禁じ手にまで進みかねない、と日銀は懸念している。
マスコミなども「日銀の政治利用は問題」(7月20日「毎日」社説)など慎重論が多く、みんなの党のいうような日銀法改正がにわかに実現するとは考えにくい。ただ、消費税論議とも絡むが、当面、財政事情は厳しさを増す一方で、日銀の金融政策頼みの雰囲気は強まりこそすれ弱まることはなさそうだ。民主党はもちろん、自民党を含め、インフレ目標を支持する声も少なからずあり、国会論戦などでもことあるごとに「インフレ目標」が議論になるのは必至だ。
日銀の白川方明総裁は選挙後の2010月7月15日の会見で「(デフレ脱却に)これからも取り組んでいきたいということに尽きる」と語り、政府と協力していく姿勢を強調。成長基盤強化を支援するために創設した異例の新貸出制度の8月実施に向けて準備に全力を挙げており、メガバンクや地銀などの尻を叩いている。
追加緩和観測がくすぶる
当面の金融政策については、足元の景気が回復基調を続けていることから、追加の緩和圧力はそう強くない。しかし、外需頼みの回復だけに、持続力には疑問符も付く。
中国はバブルを心配した引き締め気味の政策運営で成長減速の懸念が出ているし、米国も連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が7月21日の上院銀行委員会の公聴会で「米国経済の見通しは非常に不確実な状況になっている」と語るなど、追加緩和観測がくすぶる。円高が進む為替相場もにらみ、「いつ日銀への緩和圧力の大合唱が起きてもおかしくない」(政府筋)。山口広秀副総裁は「(景気)上振れと下振れのリスクは概ねバランスしている」としながらも「(下振れリスクに)目が離せない」と脇を固める(21日の富山市での会見)。
景気、景気・為替動向や国会情勢をにらみ、日銀の憂鬱な日々が続きそうだ。