菅直人首相2010年7月30日、臨時国会の開会にともなって記者会見を開いた。民主党の参院選敗北については、自らの消費税発言が「唐突に受け止められたと反省している」と改めて陳謝した。自らが出馬を表明している9月の民主党代表選については、消費税の増税については「公約にしない」としながらも、「財政再建は、どの政権でも避けて通れない」と、今後の税率引き上げに含みを残した。衆院解散の可能性についても否定した。
冒頭発言の多くが、菅内閣の「成長戦略」の説明に費やされたが、その中のひとつとして提唱されたのが、「林業の再生による地方の雇用の拡大」。
地方における雇用の拡大につなげていきたい
「林業再生」については、自らが鳩山内閣で副総理・国家戦略担当相を務めていた09年11月に言及しているものの、これまで菅内閣で主要な政策課題として取りざたされたことはなく、「唐突感」を指摘する声も出そうだ。
約40分にわたって行われた会見の中で、菅首相が冒頭発言に費やしたのは約17分。成長戦略について説明する中で、「地方の疲弊が多く言われている」と切り出し、
「林業を再生することで、地方における雇用の拡大につなげていきたい」
と続けた。その上で、日本の林業の高コスト体質の理由を、「機械を入れることができず、効率が悪いから」などと説明した。
「今、日本の国土の7割は山に覆われているが、実は日本で使われている材木の8割までもが外国からの輸入。この現実を知っている人は多くないのではないか。なぜ、そんなことになっているのか。それは、山の中にハーベスターという機械を入れるための作業道がないために、私が見てきたドイツと比べて、10分の1~20分の1しか効率があがっていない」
さらに、山林の作業機械を通すための道路を整備することで、公共事業の需要を生み出したい、とした。
「こういった地域に作業道をつくることは、地方において少なくなっている公共事業に、ある意味では代わる事業転換にもつながるし、林業が再生されれば、直接的な雇用につながるだけでなく、そこで伐採された材木を加工するといった仕事も発生して、地方・地域に雇用が生まれることになる」
「林業再生を期待できる好機にある」
このような構想が記者会見の場で披露されるのは異例だが、実は菅首相、08年7月27日のブログでは、07年5月にドイツを訪問した時の様子を振り返って、今回と同様の主張を展開している。
「その時、驚いたのはドイツの木材まで日本が輸入しているということ。1万キロはなれ、賃金水準も変わらないドイツの木材がなぜ日本の国産材との競争に勝つのか。全ては日本の林業の生産性の低さに原因がある。まず路網が整備されず、機械化が遅れていること」
さらに、菅首相が副首相を務めていた10年1月には、林野庁に「森林・林業再生プラン推進本部」が設置され、「今後10年間でドイツ並みの路網密度を達成」といった目標を掲げており、6月11日の所信表明演説でも
「路網整備等の支援により林業再生を期待できる好機にある」
と、ごく短く取り上げられてはいる。
だが、やはり首相演説として政策課題として大々的に打ち出されたことには「唐突だ」との声も上がりそうだ。