長崎県の諫早湾干拓事業で造られた堤防の内側の「調整池」と呼ばれる水域で、ワニとみられる動物が目撃され、地元では、パトロールを強化するなど警戒を強めている。
ペットとして飼う時には県知事の許可が必要な「メガネカイマン」が放流されたとの説もあるが、地元自治体が直接目撃した訳でもないので、正体は把握できていないのが現状だ。
調整池の中を広範囲にわたって動き回っている?
ワニとみられる動物が最初に目撃されたのは、2010年7月23日の午前10時半ごろ。調整池に2か所ある排水門のうち、雲仙市側にある「南部排水門」付近で、九州農政局の依頼で生物調査を行っていた九州環境管理協会(福岡市)の職員が、堤防から50~60メートル程度離れた地点で、ワニらしき生き物を3匹確認した。そのうち1匹については、写真撮影に成功した。
その2日後の7月25日18時頃には、南部排水門の対岸にあたる、諫早市側の「北部排水門」付近で、近隣住民から目撃情報が寄せられた。国土交通省長崎河川国道事務所によると、このとき目撃されたのは1匹のみ。南部排水門と北部排水門の間は約7キロ離れており、ワニが約2600ヘクタールある調整池の中を広範囲にわたって動き回っている可能性もある。
北部排水門付近でワニを目撃した男性は、地元の長崎放送(NBC)のインタビューに対して、
「野ウサギがおるけん(出没するので)、野ウサギじゃなかろうかと(ないかと思って)、ここでこうやったら(砂浜の上のボートを棒で叩いたら)、こっから(ボートの裏から)出てきた。あの(足の)速いこと!大きさは1メーター。まさか、テレビで言いよったけど、南部におったワニがこっちに来るとは…」
と、驚いた様子だった。
この3匹の生き物だが、国交省では
「ワニかどうかすらもはっきりしない。写真で見た範囲でしか分かりません」
と、「現物を確認した訳ではない」と自信なさげだ。
長崎県内に届けられているメガネカイマンはゼロ
ただ、長崎県県央振興局では、
「専門家に問い合わせたところ、『メガネカイマンのように見える』とおっしゃる方もいる」
とし、「アリゲーター科」に属する「メガネカイマン」と呼ばれる南米産のワニの可能性があるという。この地域に、元々メガネカイマンが生息していることは考えられないため、ペットとして買われていたもの逃げ出したか、飼い主が捨てたとの見方もある。
メガネカイマンは、人に危害を加えるおそれのある「特定動物」に指定されており、特定動物を飼うためには、都道府県知事の許可が必要だ。だが、県央保健所によると、現段階で長崎県内に届けられているメガネカイマンはないといい、飼い主を捜すのは難航しそうだ。
地元自治体などでは、ワニが諫早湾に流れ込む「本明川」を登ってくる可能性もあるとして、警戒を強めている。具体的には(1)パトロールを強化(2)11か所に注意を呼びかける看板を設置(3)調整池と川の間に柵を設置(4)5か所に捕獲用のわなを設置、といった対策を行っている。
前出の目撃男性は、NBCのインタビューの中で
「散歩もされんもん(できない)。野生化すれば、人間まで襲うけんが(襲うからね)」
と不安を訴えているものの、現段階の目撃情報は、前出の2件のみだ。