トヨタ自動車が、世界ラリー選手権(WRC)などの国際自動車レースへの復帰を検討している。
トヨタは世界的な金融危機の影響で赤字に転落し、2009年シーズンに世界最高峰の自動車レース「フォーミュラ・ワン」(F1)から撤退したばかり。持ち直してきたとはいえ、2010年3月期の売上高(連結ベース)は前年比7.7%減。米国などの大規模リコール問題も「鎮火」したわけではない。「金食い虫」と揶揄されるモータースポーツへの再進出は、大丈夫なのか。
WRC参戦が有力視、すでに担当者が視察
2009年3月期連結決算で、4369億円の最終赤字を計上したトヨタ。それもあって、同社はF1から撤退。F1にかかっていた年間数百億円の費用を、将来性の高い「エコカー」に振り向けるとしていた。
一方、豊田章男社長は自らステアリングを握って耐久レースに出場するほどの腕前で、レースに対する思いは並々ならぬものがある。F1撤退を発表した際も「苦渋の選択」と、悔しさをにじませていた。
そんなトヨタが国際自動車レースへの復帰に向けて検討に入っている。トヨタは「前向きに検討していますが、いつ、どのようなレースになるかは決まっていません」(広報部)と話す。
F1撤退を表明したときは、10年3月期連結決算も営業赤字が続くことを予想。ホンダや日産がひと足早く黒字転換を果たしたことを考えると、トヨタは少々後れをとっていた。しかし、エコカー補助金などの経済対策によって「プリウス」の売れ行きが好調に伸び、この3月期決算は2094億円の黒字を達成した。
黒字化と豊田社長の「熱い思い」、加えてモータースポーツは海外での人気が根強いことから、レースへの復帰で、米国を中心に起こった大規模リコール問題で傷ついたイメージの回復を狙う。
F1復帰の可能性は低い
参戦が有力視される世界ラリー選手権(WRC)は、サーキットレースのF1と並び称される、オフロードレースの世界最高峰で、ズバルやスズキもかつて参戦していた。市販車を改造して参加できるので、F1よりもコストを抑えられるという。
他の市販車改造レースには、インターコンチネンタル・ラリーチャレンジ(IRC)や世界ツーリングカー選手権(WTCC)などがあり、IRCは日本ではなじみが薄いが、低コストのため世界的に参加企業が多く、WTCCはツーリングカーで争う世界選手権で欧州では人気のレースという。
トヨタはすでに、WRCやWTCCなどに担当者を派遣し、視察しているとされる。F1はコストも高く、撤退したばかりということもあって、復帰の可能性は低い。
とはいえ、このまま11年3月期の業績がこの3月期を上回れるかどうかは不透明だ。トヨタは11年3月期連結決算の売上高で1.3%増の19兆2000億円、最終黒字で48%増の3100億円と増収増益を予測。豊田章男社長も先の決算発表で、「再出発の年」と力を込めた。
ただ、これまで売り上げをけん引してきたエコカー補助金が10年9月で終了することや、米国などの大量リコール問題もくすぶり続けていて、必ずしも「前途洋々」とはいえない。業績回復がおぼつかないと、「道楽」の批判を招くことにもなりかねない。