今イチ元気がない、やる気に乏しい、といわれる若者に、今何が求められているのか――。ベストセラー『女性の品格』の著者で昭和女子大学学長の坂東眞理子さんに、創刊4周年を迎えたインターネットメディア「J-CASTニュース」編集長大森千明がインタビューした。
大森 昔の大学生に比べて、変わったと感じるのはどんなところですか。
坂東 まず思い浮かぶのは、本を読まないことですね。情報源はインターネットや携帯電話が中心で、活字よりも映像に関心があるので、先生たちは授業でグラフや映像を活用しています。それにしても、今の若者は基礎知識や情報量が少なく、驚かされることが多い。身の回りの人間関係に気をつかうが、関心の範囲が狭い。
「僕マザコンです」と平気で言う大学生
具体的には、海外に行きたいという若者が確実に減っていることです。心地よい環境から足を踏み出したくないという気持ちの現れなのでしょうね。外国に行けば病気になったり、最悪の場合テロに遭ったりするなど、何が起こるかわからない。私が若い頃は、いつか海外に行きたいなあと思っていましたが、今の若者は居心地の悪い海外で頑張ることに魅力を感じないようです。外国に行くと、言葉が通じなかったり、バカにされたり、くやしく情けない経験を経て、一回り大きくなるのですが。
大森 では、今の大学生の良いところは何ですか。
坂東 とても素直なところです。親に反発することがなく、お父さん、お母さんともに仲良しです。「僕、マザコンです」と平気で言う大学生がいますよ(笑)。私たちの時代に、家族とは「乗り越えるべきもの」というイメージがありましたが、今の若者にとって家族は、一緒にいて心地よい仲良しなのです。 心優しいという点も挙げられます。障害を持っている学生を手助けしたり、地域の子どもの世話をしたり、勉強の遅れている子どもに教えてあげたり、といったボランティア活動の参加を募ると、たくさん集まってきます。「格差社会」に押しつぶされる人たちにシンパシィ(共感)を持っているのです。
大森 それと、最近男の子は「草食系」。女の子が「肉食系」で強くて元気がいいと聞きます。
坂東 一つには、お母さんが男の子のほうを優遇して育てているからです。女の子は手抜きになる分、のびのびと育ちます。前の世代と違う生き方をするのはこわいが楽しい。もう一つは男の子は既存の生き方が確立しているが女の子はそうでない。
中高生くらいの時に競争で負けると心が傷つく。そんな理由で、優劣をつけず成績発表をしない学校が最近はあると聞きます。大学受験で苦労させたくないからエスカレーター進学させたいという親と同じですね。これじゃ「草食系」まっしぐらじゃないですか。子どもの頃に「人生の不条理」と向き合わないとだめなんです。
「よそはそうでも、うちは違う」と言えるのが大事
大森 そういった若者に何かアドバイスがありますか。「品格」を身に付けるにはどうしたらいいですか。
坂東 まず、基礎を身に付けて欲しいと思います。足元が固まっていないのに、「自分らしくありたい」「個性を発揮したい」「オンリーワンになりたい」という若者がいますが、人と同じことができるようになってから、自分らしさを付け加えるのが筋です。古くさいとか、役に立たないとか、いろいろ言い訳を並べて、努力せずに、自分らしさばかりを追求する。これは「品格」のない行為で、見ていて痛々しいです。
大森 品格ある若者を育てるには、親はどうしたらいいでしょうか。
坂東 本人に苦労させ自分で成功する経験をもたせること。私の経験では、苦労して成功した人ほど我が子を甘やかす傾向があります。自分の苦労を子どもにさせたくない。そういう思いが強いからでしょう。日本は今、格差社会と言われていますが、本当は豊かで、ある意味日本全体が成金状態の「一億総成金」です。子どもに豊かにものを与えられる状況でも、親が甘やかしたいという欲望をコントロールすることがとても大切です。親の手元を離れるというのも一つの手だと思いますよ。江戸時代、親は良い教育者になれないと考えられていたそうです。それで、他家に奉公に出したのが良い例です。今の若者も、大学に入る前に現実社会に触れ、その結果ぜひ勉強したいと思ったら入学する方がいい。英語圏では「ギャップイヤー」というシステムがあり、大学に進学する前にボランティア活動をしたり、海外に行ったりします。
大森 「友達も持っているから」と言われると、つい買ってあげたくなってしまうものです。
坂東 私たちの時代は時間もお金も十分になかったので、「よその家と同じことはできないの」と子どもも納得していましたが、与えられる状況で与えないのは本当に難しいですよね。でも、「よそはそうでも、うちは違う」と居直っていかないとダメだと思います。
大森 ある種の「挫折」も大事ですね。
坂東 努力してもできないこと、他人に負けてしまうことがあります。それで人生すねちゃう人もいますが、じゃあ自分は何ができるだろう、得意なことは何なのか、と考える。そして方向転換する。それには、現実と向き合わなければなりません。親や周りの人間がお膳立てするようではだめなのです。
【プロフィール】
坂東眞理子(ばんどう・まりこ)
昭和女子大学学長。1946年生まれ。東京大学卒業。69年総理府入省。内閣広報室参事官、男女共同参画室長、埼玉県副知事などを経て、01年内閣府初代男女共同参画局長。『女性の品格』『親の品格』がベストセラーとなる。近著に『錆びない生き方』。
大森千明(おおもり・ちあき)
J-CASTニュース編集長。朝日新聞社でアエラ編集長、週刊朝日編集長などを務める。