牛丼チェーン各社が値下げ合戦を繰り返す中、吉野家も2010年7月下旬から牛丼を270円に値下げする。あくまで「期間限定」の価格というが、ゼンショー、松屋との「価格戦争」に乗り遅れ、後手後手が続いている。
2010年7月20日、吉野家が7月28日から8月3日までの期間、「夏の牛丼祭」を実施すると発表した。期間中、対象メニューが110円引きとなるキャンペーンで、牛丼並盛りの場合、通常380円が270円になる。沖縄県内の店舗など一部を除いて、全国の吉野家店舗で行う。
ゼンショー、松屋は何度も値下げキャンペーン実施
牛丼チェーン業界では09年末から値下げ合戦が続いている。それまで大手牛丼チェーンの最安値はすき家の330円だったが、12月3日、松屋が320円に値下げ。その直後の7日には、すき家が更に安い280円に改訂した。
その後は、松屋とすき屋が散発的に値下げキャンペーンを実施。10年春から7月にかけて牛丼が250円になるキャンペーンを何度も繰り返してきた。
一方の吉野家はというと、4月に一度270円になるキャンペーンを実施したものの、基本的には静観、380円で売り続けてきた。10年春以降、すき家のゼンショーが既存店での売上が前年度比1~2割増、松屋が2~6%増を記録する中、吉野家は1~2割減と、「1人負け」の状態が続いていた。
今回の値下げキャンペーンについて、吉野家の広報担当者は、「他社との競争で値下げするのではない」と強調する。8月は一年の中でも客足が伸びる。その時期に吉野家で牛丼を食べ、「やっぱり牛丼は吉野家」だと再認識してもらいたいのだという。
「春のセールは新聞でも取り上げられ大きく盛り上がりました。前年度の売上は超えられませんでしたが、手応えは感じましたし、多少回復もしました。今回も盛り上がれば」
と話す。ただ、値下げといってもあくまで「期間限定」。キャンペーン終了後はもとの380円に戻るが、通常価格の値下げは「考えていません」としている。
「客の流れが既にゼンショー、松屋の方にいっている」
吉野家の値下げキャンペーンについて、外食産業に詳しい経済ジャーナリストの中村芳平さんは「どれだけ離れた客を戻せるか。ゼンショーの安売りがボディブローのように効いてきている」と指摘する。客の流れが既にゼンショー、松屋の方にいっており、吉野家が取り戻そうとしても難しい、と見る。
「吉野家に固定ファンがいるのは確かですが、他と50~100円も違ったら行かなくなります。それに、最近はすき家も味が良くなっています。吉野家は、価格通りの価値があるから値下げはできないとしていますが、本当に吉野家の牛丼は優れているのか。固定ファンがいるからといって、それに甘えて殿様商売をしてはいけません」
吉野家HDは、10年2月期の連結決算で、過去最悪となる最終損益89億円の赤字を記録。7月8日に発表された3~5月期連結決算でも、最終赤字7億円だった。今後の業績によっては、4月から吉野家社長を兼任している、吉野家HDの安部修仁社長の責任問題に発展する可能性も指摘されている。
「今回の値下げにしても、後手後手な印象。長期的な戦略がなく、経営に迷いがあるように見えます。価格戦争に参加するならチマチマやるのではなく、とことんやればいいんです。今度も負けるようだと、株主も黙っていないかも知れません」