宮崎県の口蹄疫(こうていえき)問題は終息に向け、ようやく光が差してきた。ただ、畜産業だけでなく、観光業など地域経済全体に深刻なダメージが広がっており、復興までの道のりは簡単ではない。
口蹄疫は2010年4月以降、同県で爆発的に広がった。県の畜産業壊滅の恐れだけでなく、全国にも感染拡大しかねないとして、県は5月18日、非常事態を宣言。畜産農家には外出の自粛を求め、一般県民にも車の消毒や各種イベントの延期などを要請した。
JRの宮崎地区近距離運輸収入は、前年比11.3%減
それから約1カ月半の7月1日、県は、感染が終息に向かっていると判断、非常事態宣言の一部を解除した。会合などの延期は移動制限区域を除き認められた。
ようやく先行きが見えつつあるとはいえ、県が受けた被害は甚大だ。県内で殺処分の対象になった牛や豚は計約27万頭とばく大な数に上る。畜産は県の基幹産業であり、県経済全体に与える打撃は必至。「畜産農家の被害額は数百億円に上る」との指摘もある。宮崎は各地のブランド牛産地に子牛を供給しており、今回、多くの種牛も殺処分されたため、「畜産市場全体への影響は計り知れない」との懸念もある。
影響は畜産関連にとどまらない。JR九州が6月22日時点でまとめた6月の宮崎地区の近距離運輸収入は、前年同期比11.3%減の大幅減。九州全体では横ばいにとどまっており、宮崎の厳しさが浮かび上がる。同社は「宮崎へ向かう旅行のキャンセルが相次ぎ、口蹄疫の影響は畜産とは別の業界に波及してきた」とする。
県民が外出を控え、観光客も激減する中、観光業や外食業は深刻な収入減に直面する。宮崎市内のある料理店の5月の売上高は前年同期比3割以上も減少。店主は「廃業も考えなければならない」と肩を落とす。「予約が8割も減った」「6月には宴会が1件も入らない」などの声は多く、旅館業の中には「5月の売上高が前年同期の6割にしか届かない」との悲鳴も上がる。
資金繰りに苦しむ中小企業も急増
売り上げ減から資金繰りに苦しむ中小企業も急増。県商工会連合会には6月末までに約120件の相談があり、約6割が融資などの返済問題だったという。
県民の生活にもさまざま影響が及ぶ。16日に開幕した全国高校野球選手権宮崎大会は、感染拡大を防ぐため、一般客を入場させない「無観客試合」に。5月下旬から県内外の対外試合も中止しているという。
地域経済は疲弊し、県民生活は混乱している。県は1日の非常事態宣言一部解除の際、16日にも、県内全域で家畜などの移動・搬出制限を解除する「終息宣言」を出す予定だった。しかし新たな感染牛が見つかり、6頭の種牛の処分問題も加わって、終息宣言は先送り。結局、27日午前0時に宮崎県内の制限区域はすべて解除される見通しだ。
今回の事態が終息した後も、一部では壊滅状態になった畜産業の再建をはじめ、地域経済の復興に向けた課題は重い。畜産農家の精神的ダメージも深いとされる。観光業回復のためには、観光客を引き戻す手段も必要だ。宮崎再興への本格的な取り組みは今後、試練を迎えそうだ。