嵐の前の静けさなのか。参院選で大敗した菅執行部に対し、小沢一郎・前幹事長が沈黙を守っている。早くも2010年9月の民主党代表選に向け水面下で動き始めたのか、それとも参院与党過半数割れの現状を打開すべく連立を仕掛けて復権しようとしているのか。囲碁好きでも知られる小沢前幹事長の「次の一手」に注目が集まっている。
「党は(小沢氏に)離党勧告すべきだ」。10年7月16日、民主党静岡県連会長の牧野聖修衆院議員は党本部でこう語り、前原誠司・国土交通相も16日、「(小沢氏は)国会でしっかりと説明されることが大事だ」と閣議後に述べた。
9月の民主党代表選へ自ら立候補?
7月15日には小沢氏に対し、検察審査会が07年分の資金管理団体の収支報告書虚偽記載事件に関し、「不起訴不当」の議決を公表した。前原大臣らの16日の発言は、小沢氏が「政治とカネ」の問題を説明しようとしないことへの不満が党内にくすぶり、表面化した形だ。それでも小沢氏の沈黙は続いている。参院選後半の7月8日の街頭演説を最後に公の場に姿を見せていない。
「不起訴不当」議決の影響を報じた7月16日付各紙朝刊は、民主党内のさまざまな声を伝えた。「起訴相当」ではなかったことから「小沢氏に風が吹いている」(毎日)との受け止め方がある一方、検察の不起訴処分に改めて疑問が示されたことを重く見て「小沢氏はもう身動きがとれない」(産経)と、全く逆の見方も出ている。
さらに、04年と05年分の虚偽記載事件に関し、2度目の検察審査会議決が待っており、10年9月にも結論が出る見込みだ。議決次第では強制的な起訴が確定する可能性がある。
取りざたされている小沢氏の「次の一手」のひとつは、9月の民主党代表選への自らの立候補か、小沢氏の息の掛かった対立候補擁立だ。ほかに、新党立ち上げや、連立の組み替えを仕切ることで復権する、などの説が出ている。小沢グループは、党内の4割近い150人前後の最大規模をほこる。
「(代表選)出られない。引っ込みなさい」
小沢氏と「41年のつき合い」という民主党の渡部恒三・前最高顧問が7月16日に吠えた。正午過ぎ、小沢氏に対し「こそこそやるより自ら立候補したらいい」と促した直後、「いやあ、(立候補は)ない。出られない。引っ込みなさい」と引導を渡した。情報番組「ひるおび!」(TBS系)に生出演した際の発言だ。「出られない」根拠は示さなかったが、「陰でこそこそするのはやめて下さい」と、小沢氏が自身の代わりに「腹心」らを代表選にかつぐ動きにも釘を刺した。
小沢新党の立ち上げについては、「(小沢氏が議員に渡した金は、小沢氏が個人的に工面したものではなく)党の公認料だと分かってきたし、ほとんどの人はついていきません」とあっさり否定した。さらに、連立工作についても、自民とも公明ともパイプがなくなってきたと指摘し、今回参院選で躍進したみんなの党の渡辺喜美代表とも「連絡がない」と話した。渡部氏の発言は、小沢氏の「次の一手」をことごとく否定した形にもみえる。
こうした状況について、かつて「小沢氏の懐刀」と称された平野貞夫・元参院議員に質問すると、「代表選をどうするとか、そういう低次元ではないところで小沢さんはいま考えを巡らしているのではないか」との見方を示した。
平野さんは、今回の参院選期間中の菅直人首相の言動に対し、私見だと断った上で、「消費税を巡る発言の揺れや党首討論での野党党首への逆質問に終始した姿勢」が「与党内だけでなく、与党と野党の信頼関係をもめちゃくちゃにした」と激しく批判する。議会政治の中で「最も大切な」政党同士の信頼関係が失われたことに無自覚な国会議員が多すぎる、とも指摘し、「小沢さんはそこをどう復活させるか、大きな一手を考えているだろう」。