国際テロ組織「アルカイダ」が、インターネット上に英語の雑誌を発行したとして話題になっている。指導者ウサマ・ビンラディン容疑者のスピーチ内容から、「台所で爆弾の作り方」まで、テロ集団らしい物騒な記事を掲載。英語でテロリストを勧誘するのが目的のようだ。
本当にアルカイダが発行したのか、憶測が飛んでいるが、米国当局はピリピリムード。さらにこの種の「過激派サイト」にはウイルスが仕込まれている場合もあるようで、いろいろな意味で「危険」が漂う。
図解入りの「爆弾製造法」
中東・イエメンに拠点を構える「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)がネット上に公開したのは、「インスパイア」と名づけられたオンライン雑誌だ。全67ページで、英語で書かれている。
誌面には、ビンラディン容疑者の「教え」を口述筆記したものや、アルカイダのナンバー2とされるアイマン・ザワヒリ容疑者の「イエメンの人々へ」と題したメッセージ、AQAPリーダーのインタビュー、「ジハード」(聖戦)体験談など、アルカイダの考え方を伝えようとする内容が掲載されている。
特に目を引くのは、「台所で爆弾を作る」と題した「特集」だ。「台所にあるような、買っても怪しまれない材料を使って爆弾をつくれる」と、写真を使って図解入りで製造法を説明している。ほかにも、特殊なソフトを使った暗号文の送受信法など、テロ組織ならではの内容が並ぶ。
使われている写真も、テロリストを思わせる覆面姿の兵士や銃、燃え盛る炎とおどろおどろしい。一方でレイアウトはしっかりしており、色づかいにも工夫を凝らすなど、中身を別にすれば市販の雑誌を思わせるつくりだ。最後は、寄稿者や編集者、デザイナーの募集までしている。
欧米のメディアはこの雑誌を取り上げているが、意外なところで関心を寄せたのがネットセキュリティー企業のマカフィーだ。2010年7月9日付けのブログ(英語版)に「注意喚起」を掲載。それによると、過激派のフォーラムにはウイルスやスパイウエアが組み込まれていることがあると呼びかけている。本当にアルカイダが作成した雑誌かも確認できておらず、別の「ネット犯罪」の恐れも指摘。興味を引いてサイトに呼び寄せ、ウイルスに感染させるとすれば一種の「ガンブラー攻撃」と言えなくもない。
テロリスト勧誘進んでいない
アルカイダ発行の真偽は確認できないが、米国では神経を尖らせているようだ。米CBSのニュースサイトでは、動画でこの雑誌について取り上げた。CBSニュース主任政治顧問のマーク・アンビンダー氏は、当初雑誌が、各種ジハードのサイトに数日間広告バナーを張って宣伝していた事実を指摘。「台所で爆弾を作ろうなどと、まるで料理雑誌」とする一方で、「英語を話す人材を勧誘し、米国内に入り込もうとしている点を政府当局は警戒している」と話した。
日本貿易振興機構アジア経済研究所で、イスラム情勢に詳しい福田安志氏に聞くと、雑誌は「本物」の可能性が高そうだ。「アルカイダ系のサイトは以前から存在しており、アラビア語で情報発信していました」。最近のアルカイダの活動は、アフガニスタンやパキスタンで以前ほど大きく動いていない。ソマリアやイエメンでは活発化しているが、テロ集団がバラバラに動いている状態で、テロリストの「新規採用」も思うように進んでいないのではと福田氏は推測する。そこで、「英語圏で新たな人材を見つけようと、ネットを利用して勧誘に動いても不思議ではない」と話す。
誰でも見られるネットではあまりにも目立つとも思えるが、福田氏は、「少しでも採用できれば、と動いたとは考えられます。真剣にとらえた方がよいでしょう」と警鐘を鳴らす。仮にインチキサイトでもウイルスの恐れがあり、本物だとすれば危険極まりない。いずれにしても、近寄らない方が身のためのようだ。