国際通貨基金(IMF)が日本に対する年次審査報告を発表し、「2011年度からの段階的消費税率の引き上げ」を提言した。例年、IMFの年次報告の時期には、「消費税20%」などをうたった「ネバダ・レポート」という「IMF絡み」とされる文書が話題となる。どんな文書なのか。
IMFが2010年7月14日に発表した年次報告では、日本の高い公的債務残高に注目が集まっているとし、「財政再建が緊急の課題」と指摘した。
衆院予算委で取り上げられる
日本の消費税増税に言及したIMF
日本の財政再建の必要性については、菅直人首相も、財政赤字でデフォルト(債務不履行)危機に直面したギリシャを例に出し、消費税増税を含む議論の必要性を訴えている。
「日本の財政破綻を見越して、既にIMFは、日本再建プログラム=ネバダ・レポートを作成」。7月14日のIMF年次報告発表のニュースを受け、ある個人ブログはこんな指摘をした。
「ネバダ・レポート」をグーグルで検索すると、5万件以上の項目が出てくる。主に個人ブログで「IMFが、日本の債券をどのように管理するのかをシミュレーションしたものと言われています」「IMF調査官と日本の閣僚らの合作とされ(略)一部政府関係者や政治家に渡った丸秘レポート」「IMFが日本の調査会社につくらせた」などと説明されている。「瞬く間に霞ヶ関に広まった出所不明の報告書であるらしい」との記述もある。
「ネバダ・レポート」は02年2月、衆院予算委員会で取り上げられた。衆院サイトで議事録を見てみると、民主党の五十嵐文彦議員が、「私のところに一つレポートがございます。ネバダ・レポートというものです」と発言している。さらに「これは、アメリカのIMFに近い筋の専門家がまとめているもの」と指摘している。取り上げるのは、複数のレポートのうち01年9月のものだとした。
その内容は、仮にIMF管理下に日本が入った場合、「公務員の総数、給料は30%カット、ボーナスはすべてカット」「公務員の退職金は一切認めない」「年金は一律30%カット」「消費税を20%へ引き上げ」など8項目が実行されるだろう、というものだ。財政悪化を放置した場合、こうした厳しい現実に直面する危険性があることを指摘したものだ。
「幹部が同様の認識もつと確認」
果たして、ネバダ・レポートは、「IMFに近い筋」がまとめたものなのだろうか、それとも「出所不明」の調査なのだろうか。IMFのアジア太平洋地域事務所(東京)の広報担当者によると、「ネバダ・レポート」はIMFの公式文書ではないし、IMFが日本の調査会社に調査を「下請け」に出すことは「あり得ない」という。
五十嵐衆院議員に取材すると、予算委での質問はよく覚えているという。ネット上で、ネバダ・レポートについて、「出所不明」「IMFとは関係ないのでは」との指摘があることについて、こう反論した。
国会で取り上げた文書は、ネットでもネバダ・レポート(現在は改称)を配信している会社が、有料で定期発行していた印刷物の「ネバダ・エコノミック・レポート」のひとつだ。当時、「一定の勉強をしている議員やジャーナリスト」たちはかなり目にしていた文章だという。IMFの意向については「05年にIMF幹部と協議した際、ネバダ・レポートのような認識を彼らが持っていることは確認できた」。
五十嵐議員は、「日本の財政事情は02年当時より深刻化しており、現在でも財政健全化の必要性を強く訴えている」と話す。ただ、「注目を集めている消費税増税議論はあくまで一検討要素で、無駄のカットや資産売却などを含めたトータルの財政健全化が必要だ」としている。