年金払い型の生命保険に所得税と相続税をかけるのは「違法な二重課税にあたる」と、最高裁が認定した問題が、金融界に大きな波紋を広げている。銀行の定期預金や、個人向け社債なども「二重課税」の可能性があると考えられるためだ。
最大手の日本生命によると、年金払い型保険で現在、年金払いが続いている件数は3400件。第一生命も4500件が年金払いを継続中だ。還付金の対象となる商品や、「過去5年分」という還付対象の期間が拡大すれば、事態はさらに混乱する。
申告すれば、5年過ぎても救済される
問題となった保険商品は、年金払いができる死亡保障の保険で、原告の女性は、夫の死亡で10年間に毎年230万円ずつ受け取る受給権を得た。これに対し、国税は10年間に分けて年金として受け取れる2300万円を、受給権の「元本」とみなして相続税を課し、さらに年金として受け取る毎年の230万円に所得税を課税した。女性はこれが「違法な二重課税になる」として訴えた。
2010年7月6日、最高裁はこの女性の主張を認めた。国は女性が1年目の年金で支払った所得税2万5600円を還付する。
この判決で、国は今後「取りすぎた税金」を戻す必要に迫られる。野田佳彦財務相は、法律で税金の還付が認められている5年分の所得税について、保険受給者が申告すれば、5年超でも救済することを検討する考えを明らかにした。ただ、現時点では何も決まっていない。
対応に追われる大手生保などは、「二重課税と認定される商品の範囲などが決まらないと対象者がどの程度なのか、わからない」(第一生命)と、口を揃える。還付方法などの詳細も国税庁の判断待ちで、戦々恐々としている。
銀行の定期預金も理論上は「二重取り」
最高裁の判決を受けて「二重課税」の対象となる可能性の高い保険商品は他にも、契約者が保険料を掛けて退職後に年金として受け取る、一般的な「個人年金保険」がある。年金を受け取っている途中に受取人(契約者)が死亡した場合には対象となり得るのだ。
個人年金保険は銀行の窓口でも買える保険商品なので、「問い合わせが多くなるようだと、対応窓口を置く必要があるかもしれない」(地銀幹部)と、販売した銀行側も心配する。
二重課税「疑惑」がある金融商品は、銀行が取り扱う「定期預金」もそうだ。たとえば、期間3年の定期預金に預けて、1年後に預金者が亡くなった場合、その時点の元金と利息に相続税が課せられる。その2年後に定期預金が満期を迎えたとき、今度は満期時の利息に20%の所得税が課せられる。つまり相続時の1年分の利息について、「二重取り」されることになる。
ある銀行関係者は「定期預金や個人向け社債など満期がある金融商品は、理論上では二重課税の可能性があるということです」と話している。
1968年から続いていた課税方法に風穴が開いたことで、金融機関は困惑ぎみだが、ある税理士は「今回の最高裁の判決は、相続税を払っているお金持ちが対象です。個人年金保険は広く浸透している商品ですが、どうでしょうか。銀行の定期預金も、数千万円から1億、2億円を預ける人ですから、そんなに膨大な数にはならないんじゃないですか」とみている。