埋蔵金は官僚のもの
実は、菅政権のような親官僚路線は大きな政府指向であるので増税と結びつきやすいのに対して、脱官僚は小さな政府指向になるので増税は出にくくなる。
労働保険特別会計の埋蔵金を例に、それを説明しよう。菅総理は、7月4日のテレビ討論で、「政権をとってわかったが、労働保険特会の埋蔵金5兆円は実際に使えない」といった。菅総理はご存じないだろうが、労働保険特会は、保険といいながら、民間保険には義務つけている保険数理計算ができていない。だから、ドンブリ勘定で過剰な保険料を労使(給与に対する保険料は、労働者0.6%、使用者0.95%)から徴収して、天下りのためにどんどん浪費される。
無駄遣いのシンボルとされていた「私のしごと館」(2010年3月31日閉館)は、労働保険特会からの赤字補てんを受けていた。これに限らず、厚労省の天下り先である雇用・能力開発機構の運営は、労働保険特会からの資金で行われている。厚労省内では旧厚生省にも手をつけさせない旧労働省の天下り先ネットワーク聖域なのだ。さらに、菅総理は、理由として「法律改正が必要だから筋悪」と述べた。法律改正が必要というのは、官僚のロジックであり、国会議員なら、法律を改正すればいい。それができず、「法律改正が必要、筋悪」という官僚用語を言うようになったのは、菅総理が官僚に染まった証拠である。このように、脱官僚が徹底できないと、官僚の天下り維持のためには埋蔵金は官僚のものであるので国民のためには使えないといいつつ、その一方で、国民に対する消費税増税に熱心になるのだ。
7月11日の参議院選挙後、天下り法人に大量の出向者がでるが、それらは「天下りではない」といいつつ、当該法人は必要なので埋蔵金は使えない、しかし、増税は行う必要がある、ということになるだろう。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。