2010年3月期が本決算となる上場企業から、報酬総額が1億円以上の役員の氏名と報酬額を開示することが義務付けられた。報酬額ランキングを見ると上位には外国人、「中興の祖」、創業家ばかりで、「日本人サラリーマン経営者」は上位10位に入れなかったが、そのなかでも金融、商社が高額であることが判明し、今後のリクルート活動に影響を与える可能性もありそうだ。
3月期決算企業は内閣府令により、有価証券報告書(有報)に1億円以上の個別役員報酬の記載が義務付けられた。提出期限は6月30日。
大日本印刷、信越化学は「中興の祖」
ほとんどの企業は有報提出に先立って6月後半に開いた株主総会で「株主から質問があれば答える」という対応をとった。民間信用調査会社の東京商工リサーチによると、東証1部上場で6月30日夕までに1億円以上の報酬開示を確認できたのは113社213人。
個別開示は日本以外の先進国では当然のこと。米国、カナダは最高経営責任者(CEO)、最高財務責任者(CFO)と他の上位3人の計5人の過去3年分を開示。英国、イタリアでは全取締役、フランス、ドイツでは全取締役と執行役の個別報酬を開示している。日本は従来、役員全員の総額を開示していたが、欧米基準に近づいた。「役員報酬が業績に見合っているかチェックできるようにすべきだ」という理由で亀井静香前金融相が経済界などの慎重論を押し切ったものだった。
30日に締め切られた有報によると、高額報酬者は4パターンに分けられる。トップとなった日産自動車のカルロス・ゴーン社長(8億9100万円)のような外国人。2位だったソニーのハワード・ストリンガー会長兼社長(8億1450万円)を含め、株主総会では「海外のレベルに合わせた」という説明がなされた。
外国人に次いで上位に入っているのが「中興の祖」的な経営者。社長在任が30年に及ぶ大日本印刷の北島義俊氏は7億8700万円で3位。6位だった信越化学工業の金川千尋会長も今年6月まで20年間社長を務め、開示した報酬総額は5億3500万円に上った。10位の富士フイルムホールディングスの古森重隆社長(3億6100万円)らもこの類型にあてはまる。
「サラリーマン社長」では銀行、商社の高さが目立つ
「中興の祖」の次に目立つのが創業者もしくは創業家。9位のセガサミーホールディングス・里見治会長兼社長(4億3500万円)らが代表例だ。ただ、ソフトバンクの孫正義社長が1億800万円と案外少なく、トヨタ自動車の豊田章男社長は1億円に届かなかった。「株主としてかなりの配当をもらっているからではないか」(外資系アナリスト)との指摘もある。
4つ目の類型「日本人のサラリーマン社長」では野村ホールディングスの渡部賢一社長(2億9900万円)の18位が最高。この類型で目立つのは銀行、商社。特に商社は上位5社のトップすべてが1億円以上をもらっていた。製造業では日立製作所、東芝、パナソニック、ホンダなどが1億円以上だが、概して金融・商社のレベルには届かない。ただ、神戸製鋼所の水越浩士相談役が退職慰労金を含めて2億7300万円を得るなど、鉄鋼各社は「老舗」の強みか、比較的高いのが目立った。
この報酬開示には、多くのマスコミも関心を示し、事前開示した資生堂のほか、総会開催が早かったソニーなども大きく報道した。全国紙の多くは株主総会がピークを迎えた6月29日から7月上旬にかけ、順次、紙面でまとめを掲載。産経が1ページの3分の2程度を割いて約200人を業種別に分けて大きく載せたのを筆頭に、毎日、朝日が上位20人の一覧表、読売はちょっと遅れて7月5日にやはり上位20人の表を掲載した。また、当初から高額報酬の開示に疑問を呈し続けてきた日経は、個別企業が公表した時点でそれなりに報じたものの、30日朝刊でベスト5の表と20行余りの原稿でまとめたにとどまり、異彩を放った。