中国を中心とする海外から観光客を呼び込もうと、自治体、病院、旅行会社が一体となり、がん検診や糖尿病検診を目玉にした「医療観光」が全国に広がってきた。
徳島県は徳島大学病院、県医師会、県観光協会らと「医療観光推進プロジェクトチーム」を2010年4月に結成し、1回目のツアーを2010年5月22日に行った。同県は、14年連続で糖尿病死亡率がもっとも多く、これまでに培った糖尿病克服のノウハウで勝負する考え。また、中国で糖尿病患者の急増が追い風になるとみている。
個人観光ビザ拡大がきっかけ
徳島県観光企画課によると、ツアーは3泊4日で、2日目に希望者のみ糖尿病検診を行った。糖尿病検診は、動脈硬化の早期発見検査や内臓脂肪を調べるCTなど全6項目あり、5時間かけて行われた。8割の検査結果がその日のうちにわかり、医師が説明した。ツアー価格は約14万円で、このうち半分が検診料だ。ツアーに参加した中国人観光客は13人で、このうち5人が糖尿病検診を受けた。
岡山県は中国人観光客向けに、医療観光のモデル事業を2010年秋を目途に始める。そのための商談会を5月28日に行い、岡山、倉敷市内の5病院と旅行会社13社から約40人が参加した。病院側は、がんを早期に発見する「PET検診」と脳検診のセットで1人20~30万円(通訳費用含まず)のコースや、PETなしで10万円のコースなどを提案した。商品化するのは旅行会社だ。岡山県はモデル事業に参加する旅行会社を7月まで公募し、3社を選び、各40万円の委託料を支払う。
千葉県でも4月9日に「医療ツーリズムシンポジウム」が浦安市内のホテルで開かれ、千葉大学付属病院、千葉県がんセンター、亀田総合病院の医師らがパネリストとして参加した。
自治体などがこぞって医療観光に取り組んでいるのは、これまで中国人富裕層に限り発給されていた個人観光ビザが、2010年7月から中間層にも解禁され、需要が高まるとみているからだ。
2020年には市場規模5500億円
旅行会社も本格的に乗り出す。
日本旅行は、訪日外国人の医療検診旅行を専門に取り扱う「訪日医療ツーリズム推進チーム」を7月1日に新設する。同社は09年4月に医療観光ツアー事業を始め、12月までに40人の中国人富裕層が参加した。4泊5日で価格は約100万円。健診は提携先の大阪府内の病院で行う。10年7月以降に東南アジア、中近東、ロシアなどからも受け入れを見込み、取扱目標は2010 年が 200 人、2013 年度には2000 人以上を目指す。
JTBは、訪日外国人向けメディカルツーリズム事業に取り組む「ジャパンメディカル&ヘルスツーリズムセンター」を、子会社のJTBコミュニケーションズ内に4月22日に設立し、提携医療機関として、外国人受入れ実績のある亀田総合病院亀田クリニック(千葉県鴨川市)、虎の門病院(東京都港区)、東京ミッドタウンクリニック(港区)と契約した。
日本政策投資銀行産業調査部は、2020年に医療ツーリズム(観光含む)市場規模が約5500億円、経済波及効果は約2800億円になると試算している。
一方で、課題もあるとみている。長期治療を希望する外国人のための「医療ビザ」の新設、海外に向けた情報発信、医療通訳者の育成といった、様々な分野で外国人の受け入れ体制を整備することが求められる。特に病院は異なる文化や言語に対応することが必要不可欠だ。国内の勤務医不足の問題もある。海外の富裕層が優先され、国内患者に影響が出るのではないかと心配する声もあり、課題は山積みだ。