菅直人首相が提起した消費税率引き上げをめぐる発言内容が二転三転している。街頭演説で、低所得者層に対する還付に言及したときに、その対象が1日に3パターンも登場。野党やメディアはもちろん、与党内部からも「思いつき」などといった厳しい声があがっている。党首討論に応じないことを「1対8はつるし上げ」と正当化した官首相だが、まさにその「つるし上げ」に近い状況が現実化しつつある。
菅首相が「税率10%」に初めて言及したのは、2010年6月17日での記者会見の場だ。この直後から、「所得水準が低い層への負担が重くなる」などと批判が続出。
「普天間の思いつきの発言と全くかわらない」
これを受けて、収入が少ない層への軽減措置を口にするようになった。具体的には、一度徴収した消費税を、収入が少ない層には払い戻すというものだが、その対象をめぐる発言がブレにブレている。
6月30日に東北地区で行った遊説では、
「収入が年間200万とか300万とか」(青森市)
「たとえば年収300万とか350万円以下の人は」(秋田市)
「年収300万、400万の人には」(山形市)
と、実に3パターンのアイディアが披露されている。
厚生労働省の09年の「国民生活基礎調査」によると、年収400万円未満の世帯の割合は46.6%におよぶ。つまり、山形市で話した内容を実行に移した場合、全世帯のおよそ半分に対して還付が行われる形で、税率引き上げの効果が大きく損なわれてしまう。
このような状況には、野党のみならず、与党内からも批判があがっている。
野党側は、
「思いつきのままの、こういう総理大臣の発言というのは、普天間問題の思いつきの発言と全くかわらない」(新党改革・舛添要一代表)
「ちょっと精度の低い、思いつき的な発言も目立っていて、国民が混乱するのではないかと大変懸念する」(社民党・阿部知子政審会長)
「『返すなら取るな』と、私は言いたい」(共産党・志位和夫委員長)
と、発言の二転三転ぶりを攻撃。
「こんなでたらめな増税提案は、世界中で見たことない」
連立のパートナーである国民新党の下地幹郎幹事長は、
「数字を挙げて、非課税であったり還付であったりということをおっしゃることは、やってはならないことじゃないか」
「選挙の最中に、連立(相手)との話もしないで、そういうことをおっしゃっていくのが果たしていいことなのか」
と、菅首相のスタンドプレーぶりに憤った。
これまで、民主党に期待を寄せていたテレビ番組のコメンテーターらからも批判の声が上がっている。
末延吉正・中央大学特任教授は、7月2日のテレビ朝日「やじうまプラス」の中で、
「はっきり言って、こんなでたらめな増税の提案をするリーダーは、私は世界中で見たことないですよ」
と厳しく批判したほか、フジテレビ「とくダネ!」司会の小倉智昭さんも、番組で
「消費税論議をこれからするという時に、こういう言葉が菅さんから出てくるのは、その場しのぎととられても仕方がない」
と、疑問の声をあげた。ノンフィクション作家の岩上安身さんも、
「ギリシャは国債を発行したら海外で売らないといけないのに対して、日本は全部国内で買うことができる。要するに、国民の預貯金でまかなうことができる。そういう国といっしょくたにすること自体が、最も根本的に、ある種の悪質な財政破綻の不安をあおるデマみたいなもの」
と、菅首相がギリシャの財政危機を根拠に国内の財政再建を訴えていることを強く非難した。
このような批判を意識したからなのか、菅首相が7月1日に熊本市で行った演説では、
「所得の低い人に負担が重くならないような軽減税率とか還付方式とか、いろいろ考えなければいけないんです」
と、具体的な基準額については言及しなかった。
いわば、またもや発言内容がブレた形で、このブレを、産経新聞は7月2日の1面記事で、
「米軍普天間飛行場移設問題で見識のなさを示した鳩山由紀夫前首相に匹敵する無定見ぶりがあらわになった」
と切り捨てている。