JR東海で2010年4月に発覚した駅員らによる不正乗車問題は、社内の追跡調査で社員85人が処分され、特に悪質と判断された5人が懲戒解雇された。同社は社員教育の再徹底を強調しているが、旧国鉄時代から「役得」として残る「職務乗車証」のあり方を含めて、より効果的な再発防止策を示せるかどうかが信頼回復のカギを握っている。
社内調査結果として発表された85人の乗車の手口は、いずれも「職務乗車証」を使った点で共通している。
定期券など購入せず、無賃乗車
まず個人で保有する「スイカ」(JR東日本)など他社のIC乗車券を使ってJR東海以外の駅で乗車する。その後、JR東海管内の駅で職務乗車証を使って降車し、IC乗車券の乗車記録は駅窓口の端末で消去する方法だ。他社の運賃が無賃乗車となる。IC乗車券の記録は、駅窓口にある専用端末で簡単に消去でき、名古屋駅では、読み取りエラーなどで乗客の記録消去が1日平均150件あるという。
発覚した不正は、07年3月から10年4月の間で計662回、1人当たりの最大額は4万2160円、計約25万3000円。解雇処分となった男女5人は、新幹線の京都、新大阪駅に勤務していたが、JR西日本管内にある自宅からの通勤手当を受け取りながら定期券などを購入せず、無賃乗車をしていた。残る80人も、休日に東京ディズニーランドなどに遊びに出かけた際に無賃乗車したケースもあった。いずれも小遣いほしさや生活費の節約を動機に挙げているという。
同社の柘植康英副社長は2010年6月下旬に名古屋市で開かれた株主総会で「鉄道会社員にとって恥ずべきこと」と陳謝した。
不正に使われた「職務乗車証」は、管内の全線を出勤日、休日とも無料で乗車でき、約1万7000人の全社員に配布されている。社員名入りの磁気カードで、旧国鉄時代からある。他のJRグループのほか、名鉄、近鉄など全国ほとんどの私鉄が導入している。JR東海は「通勤や管内駅への移動など業務上必要」(広報)と話し、休日など私用にも使える点については「出勤日と休日の区別は難しい」と説明する。
「過去の不正を教訓にしなかった」
家族など他人への貸し出しは不正使用として処分対象になるが「これまでに不正は聞いたことがなかった」(幹部)という。
だが、職務乗車証の不正利用は過去にも例がある。04年にはJR西日本の社員と関連会社員約70人によるIC乗車券の不正利用が発覚。「JR東海は過去の不正を教訓にしなかった」との批判も出ている。
JR東海は、今後、駅の助役などが窓口処理機による消去記録を定期チェックしたり、一部の駅で職務乗車証での自動改札通過を禁止したりすることを検討しているが、不正が繰り返される懸念は消えていない。