菅直人首相の消費税を巡る「公約隠し」が始まった。10%への引き上げを「参考にする」発言について、「公約と受け止めて頂いて結構だ」と話していたのに、超党派での議論を「呼びかける」までが公約だと軌道修正を始めた。背景には内閣支持率低下があるようだ。
産経新聞などによると、サミット出席のためカナダ訪問中の菅首相は、消費税の引き上げ問題について「(野党に議論を)呼びかけるというところまでが私の提案だ」と、2010年6月27日(日本時間)に記者団に語った。6月28日付朝刊で、産経新聞は「菅首相『消費税10%公約』一転」、朝日新聞は「消費税発言 首相が修正」と報じた。
「自民党が提案している10%を参考にしたい」
菅首相は、6月21日の会見で、「参院選後、超党派で本格的な議論を始めたい。その場合、自民党が提案している10%を参考にしたい。そのこと自体は公約として受け止めてもらって結構だ」と述べていた。引き上げ時期は「少なくともこれから2年、3年、あるいはもう少し」かかるとの見通しも示していた。
首相は17日にも、民主党の参院選マニフェスト発表会見で、自民党の「10%」を参考にする、と発言した。マニフェストの文章にはない踏み込んだ発言だった。
「10%」発言は、首相が口を滑らせたものなのか。菅氏は財務相時代の10年1月、「消費増税は逆立ちしても鼻血も出ないほど無駄をなくしたと言えるまで来たとき」と衆院予算委で述べるなど慎重な姿勢をみせていた。しかし、朝日新聞報道によると、「10%」発言は、「入念に準備していた」ものらしい。
6月18日付の朝日新聞朝刊「時時刻刻」は、「実は首相はこの日(17日)の発表会で『消費税10%』を打ち出すことを狙っていた」「事前に聞いていたという側近議員は『相当入念に準備していた』と打ち明ける」と報じていた。
記事によると、その狙いについては、消費税論議から逃げない姿勢を示すことで「参院選の勝利への近道との思いもあるようだ」。また、自民党が消費税10%への引き上げを参院選の公約に掲げる中、選挙戦での違いをなくす「争点隠しになる」との思惑も指摘していた。
「争点になっているかのように伝わっているが、誤解だ」
しかし、せっかくV字回復した内閣支持率は、「消費税10%」発言以降、下降路線に入る。一時は「参院選楽勝ムード」も出たが風向きが変わってきた。6月17日の首相発言の後、19・20日の両日に各社が実施した世論調査で、内閣支持率は朝日新聞で9ポイント下落(1週間前調査と比較)の50%、読売新聞で4ポイント下落(同)の55%と落ち込みを見せた。さらに読売新聞が25~27日に実施した調査では、内閣支持率は50%と、前回より5ポイント下がった。また、朝日新聞は26日付朝刊で、「民主 過半数微妙」の見出しで、世論調査を踏まえた参院選序盤情勢の分析記事を掲載した。
こうした流れを受け、周囲は「火消し」に追われている。民主党の東京選挙区候補でもある蓮舫・行政刷新担当相は6月27日、徳島県の街頭演説で「菅さんの言った消費税(引き上げ)が、選挙で争点になっているかのように伝わっているが、誤解だ」と弁明した。
菅首相も、「誤解」を生んだのはマスコミのせいだ、といわんばかりの「言い訳」を始めている。産経新聞(6月28日朝刊)によると、「菅首相はカナダ・トロントでの同行記者団との懇談で報道に八つ当たりした」。こう言ったのだそうだ。「私は(各党に消費税の議論を)呼びかけると申し上げたが、皆さんが書いている見出しだけ読むと書いていない。もうちょっと正確に言ってほしい」
菅氏は首相就任時の会見で、幕末に奇兵隊をつくった長州の高杉晋作について触れ、「逃げる時も速いし、攻めるときも速い」と評価し、自身の内閣を「奇兵隊内閣」と名付けた。菅内閣は、消費税引き上げ問題からは「速い」スピードで逃げてしまうのだろうか。