貸金業者への規制を強化する改正貸金業法が2010年6月18日、完全施行された。今回の完全施行では、借入総額を収入の3分の1までに制限する「総量規制」が導入されたほか、上限金利(29.2%)が15~20%に引き下げられた。
「借り過ぎ」を防ぎ、多重債務問題を解決するのが目的だが、周知が不十分で混乱が起きかねないうえ、景気への悪影響も指摘され、政府自身が「必要なら見直し」と、改正法施行当日に表明する異例の事態になっている。
「担保のない零細企業に貸してくれるところがなくなった」
施行日に東京都港区のJR新橋駅前で通行人にティッシュを配って改正法のPRに努めた大塚耕平副内閣相(金融担当)は、記者の質問に「状況を見極め、対応すべきことがあれば迅速に対応したい」と述べ、今後の利用者の資金繰りの状況などをみて、何らかの対応を検討する可能性を示した。
自見庄三郎郵政改革・金融担当相も6月22日の会見で、「政治主導」のフォローアップチーム設置を発表。「周知徹底と影響の把握を推進する」と語り、政府を挙げて完全施行後の実態把握に取り組む考えを示した。自見担当相は「施行後すぐにフォローアップチームを作ったのは前例がない」と胸を張ったが、それだけ不安が渦巻いることを、図らずも示した格好だ。
実際、金融庁の調べでは、貸金業者の利用者約1400万人のうち、約700万人が総量規制に引っかかり、新たな借り入れができなくなるとみられている。それなのに、3月時点で総量規制を知っていたのは4割程度。また、収入のない専業主婦の借り入れには、配偶者の同意や収入証明書の提出が必要になったことから、多くの貸金業者が「手間がかかりコストに見合わない」として、既に専業主婦への貸し付けを実質的にやめている。突然借りられなくなり、生活や返済に行き詰まる人が続出する可能性がある。こうした人たちの生活再建を支援する体制は心もとない。
中小零細事業者への資金繰りへの影響は一番深刻だ。担保などが薄い個人事業主にとって、緊急のつなぎ資金を即日、無担保で貸してくれる貸金業者は生命線。だが、改正法完全施行により、個人事業主が「年収の3分の1」を超えて借りる際は、事業資金であることを証明する書類の提出が義務づけられた。
政府は激変緩和措置として、この手続きを簡素化したものの、貸金業界関係者は「上限金利が引き下げられ、手間がかかる短期のつなぎ融資ではもうけが出ない。零細事業者が借りにくくなるのは確実」と打ち明ける。ある零細建設関連業者は「きっちり遅延もなく返済してきたのに、なぜ借りられないのか」と不満をあらわにする。金利引き下げによって採算が合わなくなった貸金業者の廃業も急増。都内の個人事業主は「担保のない零細企業に貸してくれるところがなくなった。商売を広げるチャンスがなくなってしまう」と訴える。