スイカ、メロン、トマト、サクランボといった農作物の盗難が、全国で相次いでいる。大量に盗み、ネット通販などで売っているらしい。
100年の歴史を誇るブランドスイカ「大栄スイカ」が鳥取県北栄町で出荷ピークを迎えている。全国的には不作だったが、大栄スイカは1万245トン(09年比97%)の出荷を見込む。しかし、盗難被害が前年を上回り、生産者は頭を抱えている。過去5年は毎年4件以下だったが、2010年は6月24日時点で5件。1回の盗難でおよそ20玉が盗まれ、被害総額は約20万円にのぼる。
畑がぐちゃぐちゃ「怖くて足が震える」
北栄町の生産者によるパトロール隊が6月4日に結成されたが、その翌日も盗まれた。
「ほぼ出荷できる状態だっただけに残念です。ツルが踏まれて畑がぐちゃぐちゃになり、生産者は『怖くて足が震える』と言っていました」
JA鳥取中央大栄支所北栄営農センター販売課の担当者はこう語る。
茨城県有数のメロンの産地、八千代町では、出荷直前の「クインシーメロン」約250個が、6月17日午前7時~19日午前11時にかけて盗まれた。被害総額は25万円相当だ。下妻警察署によると、メロンの大量盗難は初めて。最近では09年9月に下妻市内で梨2000個が盗まれた。
茨城県潮来市では、トマト約900個(約6万円相当)が盗まれ、2010年6月14日に生産者が通報した。JAなめがたの担当者によると、トマトの盗難は初めてだ。
「複数の犯人でないと持ち出せない量です。出荷間際だったので、以前から目を付けられていたんじゃないか。野菜の盗難に保険はなく、やられ損ですよ」
青果市場に持ち込むと正体がバレる
6月23日には、山形県天童市のサクランボ畑から高級サクランボ「佐藤錦」500キロ(約150万円相当)が盗まれた、と届け出があった。JAてんどう販売部担当者は、「今回は特別多い」と憤る。
温室みかんや無農薬温室レモン、米などを生産している河合果樹園(愛知)の生産者は、09年に盗難犯を現行犯逮捕した。犯人は前科五犯で、「自分で食べるために盗った」と話していたという。
最近は販売目的で大量に盗まれるケースが多く、河合果樹園の近くでもキャベツが1畝(1列)ごっそりと持って行かれた。盗んだ品を青果市場に持ち込むと、登録制なので正体がバレるため、通販サイトで売っている可能性が高いと見ている。農園や果樹園の直販サイトを名乗りながら、実態がないこともあるそうだ。
「農作物の盗難が相次いでいるのは、不景気のせいだけではないと思います。畑からというのは、店などで盗むよりも罪悪感が薄いようです。収穫するまでに長い時間と労力がかかっていることを知らない人もいます。農産物は生産者にとって労働の対価でありながら、お金に替えられない喜びでもあることも、わかってもらいたいです。大量に盗まれるようになり、モラルに訴えるレベルではないと見ています」
農家は人材不足と卸価格の下落による売上げ減で、「ものすごい勢い」で廃業している。盗難に遭ったのを機に廃業する生産者も少なくないという。