参院選が公示され、公式に選挙モードになった。となれば、マスコミ各紙は、各党の政策比較をするものだが、今回はさぞかし大変だろう。民主党と自民党だけをとっても、夫婦別姓や外国人地方参政権などでは違いは明確であるが、国民生活に関係が深い経済政策ではほとんど同じになっている。
これを、民主主義が成熟してきて政策の差異がなくなってきたと理解することは間違いだ。民主党も自民党もそれぞれ政策の「家元」がいて、その家元の示すものを出しているだけだ。その家元とは霞ヶ関官僚である。
いきなり「4番」の増税持ち出す
第一に消費税10%であるが、自民党が公約として先に出した。それは、谷垣禎一自民党総裁の意向が大きい。いうまでもなく、谷垣総裁は消費税引き上げ論者で自民党総裁になった人だが、その基本は財務大臣の時に形成された。財務大臣を辞めても、財務大臣時代と同じように財政再建を言い続けたというより、他の政策を知らなかっただけだ。おそらく民主党は消費税引き上げをいわないと思い込んだのだろう。
しかし、やはり財務大臣を2010年1月から経験した菅直人総理も、急に消費税の話をし始めた。かつて「鼻血も出ないほどムダをなくしてから」と言っていたことなど、すっかり忘れ去って増税路線まっしぐらだ。民主党マニフェストには書かなかったが、菅総理は記者会見で10%への引き上げをぶち上げ、自民党にクリンチした。
実は、増税へのプロセスは、世界各国とも似ている。つまり、1番バッターで名目成長率を上げること(税増収)、2番バッターで埋蔵金を含む資産を可能な限り売却すること、3番バッターで公務員給与を含む歳出をカットすること、最後に4番バッターで増税をするという「打順」が大切だ。ところが、財務省の路線は、1~3番はもうできないといい、一気に4番に行くのだ。特に、埋蔵金を含む資産の売却は、霞ヶ関官僚の天下り先の資金源であるので、「家元」が財務省官僚であると、増税の前提条件にされない。
第2に成長戦略だ。09年の民主党は成長戦略がないと批判された。菅総理は新成長戦略を打ち出したが、それが麻生政権の時と瓜二つだった。民主党の新成長戦略の「グリーン・イノベーション」「ライフ・イノベーション」「クール・ジャパン」は、自民党麻生政権での「低炭素革命」「健康長寿」「魅力発揮」をカタカナに直しただけだ。なぜ同じになるかというと、これらは経産省らの官僚が家元になっているからだ。
ただし、(1)デフレ脱却、(2)名目成長率、(3)郵政民営化、(4)道州制などの違いもある。民主党では、(1)のデフレ脱却でインフレ目標が盛り込まれなかった。民主党内のデフレ議連が強く求めたが、現在の執行部では、こうした世界標準の考え方は受け入れられない。このため民主党の示す名目成長率は3%で、世界の先進国中で最低部類だ。筆者は、これまで名目4%成長は黄金律と表現し、増税なき財政再建のためにも必須条件であるといってきた。
民主は天下り「解禁」した
6月22日に内閣府から公表された経済試算では、大雑把に言えば、財政再建について名目2%なら消費税15%、名目3%なら消費税10%が必要になる。ということは、名目4%なら消費税5%ということで、やはり増税はいらない。自民党は、名目4%とインフレ目標があるので評価できるが、名目4%成長なら増税はいらないはずだ。しかし、消費税10%への引き上げを主張しており、ややチクハグな印象だ。
(3)郵政民営化、(4)道州制では、民主党の大きな政府指向がでている。民主党は、郵政民営化逆行の再国有化であり、さらに地域主権というが、実は一括交付金というカネづるは手放さないので、中央集権的な大きな政府指向だ。
いずれにしても、民主党と自民党で政策が似てきたのではなく、それぞれ家元が霞ヶ関官僚で同じになったのだ。この意味で、民主も自民も脱官僚になりきれないことがポイントだ。
6月22日に閣議決定された「退職管理基本方針」は民主党の脱・「脱官僚」をよく表している。「天下り法人への出向」という名目にすれば天下りとは扱わず、そのポストも公募対象にしない、と決めた。7月の役所の定例異動で、「天下り法人への出向」という名の天下りが大量になされるはずだ。この時期に閣議を行ったのは、7月人事を優先する官僚側に菅政権が屈して、以前であれば「裏下り(省庁OBらによる事実上の天下りあっせん慣行)」とかいって批判していたものを政府公認で「天下り」を解禁したわけだ。これが、民主党の現状だ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。