中国が人民元相場の弾力化を打ち出し、初日取引で「最高値」を更新した。中国で相次ぐ賃上げなどを求めるストライキと合わせ、安い人件費に支えられてきた「世界の工場」の存在感が揺らいでいる。さらに安い人件費を求め、業界によっては、「バングラデシュ詣で」も始まっている。
2010年6月21日の上海外国為替市場の元の終値は、対ドルで1ドル=6.7976元まで上昇した。中国人民銀行が元相場の弾力化を公表してから初の取引日だった。先週末18日の終値から0.42%の上昇。元高ドル安は、ドル決済をする外国からの進出企業にとっては、現地での人件費増につながる。
ダッカの賃金、上海の4分の1
また中国では、賃上げなどの待遇改善を求めるストライキが相次いでいる。2010年5月以降、ホンダの部品工場や日産、トヨタ系列の工場でもストが起き、賃上げで労使合意するなどしている。台湾系電子機器工場で工員の自殺が相次いだことも注目され、会社側は大幅な賃上げを発表している。賃上げ要求の波は、沿岸部だけでなく、沿岸部より低賃金とされていた内陸部へも広がりを見せている。
こうした中国の人件費増圧力は、「世界の工場」の存在意義を脅かしている。中国の経済成長や人件費増に伴い、海外企業の「脱中国」の動きはすでに出始めていたが、最近の賃上げムードは、こうした傾向に拍車をかけそうだ。
例えば、ベトナムのハノイの最低賃金は、上海の約半分とされる。バングラデシュのダッカでは、平均賃金が上海の4分の1程度とも言われる。
日本のアパレル業界では、バングラデシュを視察する企業が増えている。ユニクロを展開するファーストリテイリングが09年にバングラデシュで商品調達を始めたことなどが影響している。同社は中国での生産比率を下げ、バングラデシュやベトナムでの生産を増やすことを検討しているという。
「プラス1」でリスク分散
日本企業の海外進出の動向に詳しいあるアパレル業界関係者は、「『中国プラス1』で、中国以外にもベトナムやインドなどへ生産拠点を求める流れは確実にある」と指摘する。最近ではさらに、ベトナムからバングラデシュへ、カンボジアからラオスへ、と一層の低賃金を求め「奧へ入っていく」企業も出ている。そうした国は、技術力などの点で中国にはまだかなわないが、「コスト削減を求める流れは止まらない」としている。
もっとも、自動車産業では、中国の関税の高さなどを考えると、現地生産しないと中国では勝てない、との指摘もある。それでも先のアパレル関係者は、「中国一辺倒の『世界の工場』という状況は崩れていく」とみる。賃金面の話だけでなく、「リスク分散の観点からも中国一国へ特化しているのは問題がある」との考えが、アパレル業界以外にも浸透しつつあるからだという。