「非実在青少年」といった独特の言葉が注目を集めた東京都の青少年健全育成条例の改正案が、都議会の6月定例会で審議入りする。出版業界は「創作活動が萎縮する」と反発する一方、都側は「表現活動を規制するつもりはない」と、釈明に追われている。自民・公明の両党は小幅修正した修正案を提出した上で成立を目指すが、最大会派の民主党は、改正案の撤回を求めている。議会を二分する形で議論が白熱しそうだが、結局は反対多数で否決されそうだ。
改正案では、18歳未満として表現されているマンガやアニメのキャラクターを「非実在青少年」と定義。この「非実在青少年」の性的行為を描いたマンガの18歳未満への販売を規制するとの内容だ。
条例案は2月24日開会の都議会3月定例会に提出され、その直後から「規制の基準があいまい」といった、非難の声が続出。3月定例会では「継続審議」とされた。
パンチラや、おっぱいやお尻だけでは規制されず
これを受けて、東京都は4月26日には想定問答集を発表、
「『非実在青少年』のパンチラや、おっぱいやお尻が見えるシーン、裸のシーン、入浴シーンやシャワーシーンの描写があるだけで規制することはありません」
などと、25項目にわたって条例への理解を求めた。
それでも、反発の声は収まらなかった。例えば、出版社10社と漫画家の有志が5月25日、
「漫画作家の創作活動を萎縮させ、漫画文化の衰退を招くことは必至」
などとする声明を発表。日本脚本家連盟も、5月31日に「行政による思想・感情への介入の契機となることを危惧する」
との声明を発表している。
実は、石原慎太郎都知事も、条例の内容に苦言を呈したことがあった。5月7日の会見で、
「『非実在青少年』なんて、誰がどう解釈しても、幽霊の話かと思っちゃう、本当に」 「特に役人がつくる言葉なんていうのは、くだらない常套語があって、世間に通用しないこといっぱいある」
などと批判を展開した。ただし、
「部分修正すればよろしいので、趣旨は正しいと思いますから、撤回する必要ないです。何で議会は自分たちの手でリペア(修正)して、より良いものにブラッシュアップする努力しないんですか」(5月28日)
と、あくまでも「小幅修正」にとどめ、開会中の6月の定例会での成立を目指したい考えだ。
民主党は改正案撤回を要望
もちろん、改正案成立に向けた「応援団」もいる。東京都小学校PTA協議会は、3月と6月の2度にわたって、都議会機長などに早期成立を求める要望書を提出。表現の自由について危惧する声については、
「子どもを守るよりも自分を守ることが大事だ、と言っていることに他ならない」
などと反論している。
このような状況で、6月8日には代表質問が行われ、法案をめぐってヒートアップした。都側と対立姿勢を深める最大会派の民主党は、「提出者自らが不備を認めるような法案は撤回すべき」との立場で、この日も、山下太郎都議は
「都にはあらためて改正案の速やかな撤回を要望する」
と発言。一方、改正案の成立を求める自民党の小磯明都議は、
「改正案に賛成の立場から、都民のため条文をより分かりやすくし、制度のあり方を3年後に検証するなどの修正案を都議会公明党とともに作成した」
と、修正案を提出することを明らかにした。修正案では、「非実在青少年」を「描写された青少年」、「青少年性的視覚描写物」を「青少年をみだりに性欲の対象として扱う図書類」に修正するなどの文言修正や、条例の施行から3年後に内容を見直すという附則を加えるなどの「小幅修正」が中心だ。
改正案をめぐっては、民主党や共産党が撤回を求めている。6月定例会では白熱した議論が展開されそうだが、結局は反対多数で否決される見通しだ。