スペインが深刻 不動産バブル崩壊?
―― ギリシャ国民が政府の財政圧縮策に反対して死者が出る騒ぎになっている一方で、ギリシャを支援する立場にあるドイツ国民もまた不満が募っています。
折見 公務員の削減など、ギリシャの財政再建が軌道に乗るには時間がかかるでしょう。前出のPIGS支援には4000億ユーロ規模の融資を、EU内で資金調達する計画です。経常黒字が多いドイツが主に支援に応じることになりますが、ドイツも資金が潤沢にある状況ではありません。ドイツ国民には、なぜギリシャなどの借金を肩代わりしなければならないのか。そんな不満がくすぶっています。実際、5月に行われたドイツの州議会選挙では、メルケル首相率いる連立与党は予想外の敗北を喫しました。
フランスも経常収支は赤字ですし、財政赤字の対GDP比はPIGS並みに厳しい状況にあります。ただ、ギリシャ国債などを多く買っていたのがドイツやフランスなどの他のEU諸国の銀行だったわけですから、南欧のソブリン問題を放置しておくわけにもいきません。
―― 事態はスペインで深刻化しそうな兆しがあります。
折見 「PIGS」といわれる国の中で、特にスペインに注意が必要なんです。まず、経常収支はマイナス。それに、スペインの銀行はポルトガルの国債をたくさん買っています。つまり、ポルトガルが財政危機に陥るとスペインも危うくなって、玉突きのように問題が欧州に一気に広がる懸念があるわけです。
スペインはギリシャやポルトガルに比べると財政やGDPの規模も大きく、それだけ影響があるのです。それにスペイン自体の住宅バブルの影響も心配です。家計の借金が返せず、消費も低迷します。最近、デフレの兆しが現れてきたのが気になるところです。
そもそも、スペインの不動産バブルは低金利の日本円で調達して得た資金も一因ですから、日本も多少は関わっている。デフレ基調のなかでの緊縮財政という、スペイン政府はきわめて難しい舵取りを強いられることになります。
―― それはスペインの財政危機が、日本の大手銀行にも影響するということですか。
折見 スペインが金利の低い日本円で資金を調達していたのは日本で営業する外国銀行が中心だったとみられています。したがって、日本の銀行の影響は軽微でしょう。それに、彼らはすでに資金を圧縮しています。問題はスペイン国内の貯蓄銀行です。貸倒れの増加や不動産バブルの影響で経営が悪化しています。
――スペイン、イタリア、さらにフランスと「ドミノ倒し」になると大変ですね。
折見 ギリシャやスペインの国債を多く保有しているのはドイツやフランスの銀行です。また、「PIGS」向けの外銀全体の融資残高は2兆5350億ドルありますが、このうちEU諸国の銀行だけで1兆9150億ドル(75.5%)を占めています。つまり、どこがデフォルトを起こしても、EU内の別の国が影響を受けて、連鎖的に金融危機を起こす可能性が高まるというわけです。
EUの統一通貨ユーロは、その前提ができるだけ経済情勢をあわせることで維持していたのですから、表面上はお互いが債務を持ちあって、支えあっていたわけです。しかし、その一角が危機的状況に陥ったため、次々に不安が広がってしまった。いまでは各国が疑心暗鬼になってしまったともいえます。