介護、医療を柱に雇用創出 菅首相の経済政策見えてきた

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   2010年6月8日発足した菅直人内閣の経済政策の方向が見えてきた。一言で言えば、財政再建と経済成長の両立を狙うというもので、そのために社会保障の強化を大きな柱と位置づけている。

   とりあえず新政権への「ご祝儀」もあって、比較的好意的に受け止められているが、日本経済の現状を見ると、その実現は容易ではない。お世辞にも「経済政策通」とはいえない新首相がいかに舵を取るか、注目される。

「知恵袋」は小野善康・大阪大社会経済研究所長

   菅首相は組閣後の会見で、「社会の閉塞(へいそく)感」が強まっているとの現状認識を示し、「このような日本を根本から立て直して、もっと元気のいい国にしていきたい」と、内閣の使命を定義。そのために、「強い経済と強い財政と強い社会保障を一体として実現すること」を課題として示した。

   菅首相は自身の経済政策を「第3の道」と称する。財政を公共事業につぎ込む田中角栄バリの「第1の道」、小さな政府・規制緩和という小泉純一郎型構造改革の「第2の道」のいずれも否定するのだ。具体的には、「増税で得た財源を使って成長を実現する」というもので、「同じお金の使い方でも雇用と需要に焦点を置く」として、成長分野への重点投資を描く。

   中でも、介護、医療など社会保障への支出を増やして産業として育て、雇用も生むとともに、将来不安を解消して安心してお金を使えるようにする、という一石二鳥の効果も狙っている。

   こうした考え方は、「菅ノミクス」「菅ジアン経済学」などとも称される。その「知恵袋」が2月に菅氏のご指名で内閣府参与に任命された小野善康・大阪大社会経済研究所長だ。

子ども手当のようなバラマキは埋もれてしまう

   ご本人は「ケインジアン(ケインズ経済学者)」ではないと語るが、現在の日本で有数のケインズ研究者として知られ、失業(働ける人に働く場がないこと)が最大の非効率だとして、不況で民間の経済活動が不活発な時期は税金をとって財政で仕事を作り、雇用を増やせばデフレも改善し、消費も税収もやがて増える、と主張する。

   ただし、所得制限のない子ども手当のようなバラマキは家計のやり繰りに埋もれてしまうから、学用品や学校の設備などに使えば子どもの便益になるとともに関連メーカーや業者に金が回り、雇用も増えると説く。

   菅首相は、国家戦略相として2009年末に「新成長戦略」の基本方針をまとめたが、年明けに財務相に横滑りしてからは、就任早々、「1ドル=90円台半ばが望ましい」と円安誘導発言して「素人ぶり」(エコノミスト評)を発揮、さらに参院予算委員会で子ども手当の経済効果を聞かれて立ち往生したのが「かなりショックだった」(財務省筋)といわれ、以後、経済政策を猛勉強、小野氏からも数度の「講義」を受けたという。

   2月にカナダで開かれた先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)で、日本の厳しい財政状況を目の当たりにしたことで「明らかに意識が変わった」(財務省幹部)との指摘もある。

   いずれにせよ、最近は財政再建に積極姿勢を見せるようになった。ただ、単純な財政再建論、増税論ではなく、成長戦略などを組み合わせるところがミソ。「元々経済に明るくはないが、勘がいい」(経済官庁幹部)と、霞が関でも財務相就任後の評価は徐々に上昇。

新聞社説も「財政再建」では比較的好意的

   新内閣発足に合わせた新聞各紙の社説も、「財政再建が歴史的使命」(朝日)、「財政再建で信頼回復を」(毎日)、「景気と財政再建の両立を図れ」(読売)など、いっせいに財政再建の必要を打ち上げたが、菅首相の姿勢を「(財政再建という)使命を理解しているように思われる」(朝日)など、比較的好意的に受け止めている。

   ただし、大きな風呂敷として広げるのはいいが、各論を政策に落とし込むのは簡単ではない。具体的には民主党としての参院選マニフェスト策定と並行して、6月中に「中期財政フレーム」と「財政運営戦略」をとりまとめなければならない。ギリシャ危機を機に、各国財政への市場の視線は厳しく、債務残高がGDPの2倍近いという世界最悪水準の日本は、「今月下旬のG20(20カ国・地域首脳会議)までに財政再建の大きな道筋を示すことが不可避」(国際金融筋)。そこでは、「消費税引き上げに触れないなら、世界には相手にされない」(財務省幹部)。

   8日の会見で菅首相は財政再建について、「党派を超えた議論をする必要が今この時点であるのではないか」と語った。マニフェストに消費税引き上げを書き込む方針といわれる自民党が、菅首相の「誘い」に乗るのかも含め、今後の展開から目が話せない。

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