松下政経塾出身の政治家が、菅直人新内閣に4人入閣し、民主党幹部にも起用されて存在感を強めている。現在34人もいるという同塾OBの国会議員の中から、近い将来首相が生まれる可能性もある。
同塾出身の村井嘉浩宮城県知事(49)は、菅新内閣について「今後、つながりが出てくるかも」と期待感を表明した。OB4人が顔をそろえた菅内閣が発足した2010年6月8日、記者らの質問に答えた。
樽床・国会対策委員長や福山・官房副長官も
菅新内閣に新入閣した同塾OBは、野田佳彦・財務相(53)と玄葉光一郎・公務員制度改革担当相(46)だ。留任組の前原誠司・国土交通相(48)と原口一博・総務相(50)を入れると4人にもなる。さらに、民主党の代表選に立候補した樽床伸二・国会対策委員長(50)や福山哲郎・政務官房副長官(48)も、と目白押しだ。
民主党議員以外にも、神奈川県の松沢成文知事(52)や、共に日本創新党の山田宏・前杉並区長(52)、中田宏・前横浜市長(45)らがいる。自民党にも逢沢一郎・元幹事長代理(55)や高市早苗・元沖縄北方少子化担当相(49)といった顔ぶれが並ぶ。
松下政経塾は、現パナソニックの創業者、故・松下幸之助さんが1979年に設立した。現在は財団法人で、神奈川県茅ヶ崎市に約2万平方メートルの敷地を構えている。
同塾サイトによると、松下さんが「新しい国家経営を推進していく指導者育成が、何としても必要である」との思いから「私財70億円を投じた」。10年4月現在の塾生は16人、卒塾生は242人(うち女性31人)で、野田財務相と自民の逢沢衆院議員らが1期生だ。
塾生はどんな生活を送るのだろうか。最近では3年課程で、前半は全寮制の生活を送りながら座禅や「人間観」、「国家観」などの講習を受ける。「100キロ行軍」などもある。同塾事務局によると、生活費として月15万~20万円を塾側が支給する。
課程後半は、各地に散って自分のテーマに沿った実践活動を行う。最後は卒塾論集を作り、外部有識者に審査される。
毎年の募集に人数枠は特にないが、最近の入塾者は1期5~8人が多い。応募数は年により前後するが「概ね200前後」(事務局)。やはり政治家志望が多いそうだ。
ライバル意識が強く、「目立ちたがり」?
卒塾者の進路は、政治家70人(うち、国会議員34人)など政治分野43%、会社経営など経済分野28.1%、研究・マスコミ分野16.5%などだ(10年5月7日現在)。
同塾16期生で、現在大阪府池田市の単位認定型フリースクール「スマイルファクトリー」校長を務める白井智子さん(37)に話を聞いた。
白井さんの場合、塾生時代に「児童と同じように」小学校に「通学」、授業や給食などを体験する生活をしばらく続けた。ここで、「現場に潜り込んで本音を話してもらう現地主義の大切さを学んだ」と振り返る。卒塾生らの「OB会」は定期的に開かれており、今回入閣した政治家らともよく言葉を交わすという。今回の菅・新体制に塾OBが多く参加していることについては、
「税金の使い道の名目は福祉・教育でも、本当に困っている人の所には届いていない、という実感がある。こうした現場の声を吸い上げて現地主義でがんばって欲しい」
とエールを送る。
松下政経塾OBの政治家の傾向について、政治評論家の浅川博忠さんは良い面として、政策を真面目に勉強するタイプが多く、「世襲議員と違って、良い政治家になりたいという向上心が筋金入り」、という点を挙げる。ただ、OB同士のライバル意識が強い傾向があり、目立とうとして個人主義に陥るきらいもある、としている。