新聞を読んでいる人は91.3%――そんな調査結果の報道に対し、「そんなにたくさんいるのかな」との素朴な疑問の声も挙がっている。読者の「新聞離れ」が指摘されているが、それは虚像で実は新聞は「安泰」なのだろうか。
2010年6月8日の全国紙朝刊各紙に、日本新聞協会が7日に発表した「全国メディア接触・評価調査」の記事が載った。見出し(東京最終版)を見ると、「『新聞読んでいる』91.3% 協会調査」(読売)、「『新聞を読む』91.3%」(朝日)などと報じている。
「ネット普及で新聞とってない家庭も多いはず」
新聞の読者・広告離れが指摘され、新聞の部数が減少傾向の中、こうした報道に違和感をもった人もいたようだ。インターネット上では、「インターネットが普及して新聞をとってない家庭も多いはずだから 91%ってのは信憑性が薄いな」(時事通信のヤフー配信記事へのコメント)、「マジっすか。高いから経費削減でネットだけにしたヨ」(朝日新聞ネット配信記事についた「はてなブックマーク」)などの指摘があった。
同調査は、新聞協会広告委員会が2年に1度行っており、今回は昨09年秋に実施した結果を公表した。全国の15歳以上69歳以下の男女が対象で、「住民基本台帳からの層化2段無作為抽出」による「訪問留め置き法」で調査した。有効回収率は61.4%で3683人が回答した。
新聞に「接触して」(読んで)いる人は、前回(07年)調査より1ポイント減の91.3%(無回答を除く)だった。「毎日読んでいる」(62.7%)から「週に1~2日」(6.9%)、「それ以下」(5.2%)などを含んだ数字だ。
もっとも、年齢層による結果にはかなり差がある。「読んでいない」は、全体(無回答を含む)では9.1%で、60歳代(856人)と50歳代(797人)はともに4.1%だった一方、15-19歳(227人)は24.2%、20歳代(434人)は19.6%だった。若い人ほど「読んでいない」人が多い結果となっている。また、「(週に1~2日)それ以下」も、15-19歳は11%、20歳代11.3%、60歳代1.6%などとなっているが、これらは「接触して(読んで)いる」人として計算されている。
ほかの調査ではどうだろうか。公益財団法人の新聞通信調査会の「メディアに関する全国世論調査」(2009年)によると、「専門調査員による訪問留置法」による調査の結果、「朝刊や夕刊を読む」は84.4%、「読まない」15.2%だった。
「日常生活に欠かせない基幹メディア」
また、NHKが5年に1度行う「国民生活時間調査」(2005年)では、新聞を読む「行為者」(15分以上)は、平日で44%、日曜で43%だった。以前の調査との比較(平日)の分析では、「この10年間で男30~50代での落ち込みが大きいことがわかる」「10年前にすでに行為者率が低かった男20代が、30代になっても読者が増えなかった」「10年前の男30・40代(05年の男40・50代)で、この10年で新聞を読まなくなった人が大幅に増えたことが読み取れる」などと指摘している。
質問項目が違うので単純比較はできないが、同NHK調査など「新聞離れ」を示す調査の印象が残っているため、今回の協会調査の「91.3%が新聞を読んでいる」に違和感を持った人もいたようだ。
読売、朝日、日経新聞の共同サイト「新sあらたにす」で「新聞案内人」も務める評論家の歌田明弘さんは「細かい内実を問題にしないと『91%が読んでいる』は意味がない」と指摘する。調査結果では、朝刊(平日)の1日あたりの「接触時間」は平均24.8分で、20分未満は47.4%と半数近くなる。
「10分未満も22.3%もおり、テレビの番組欄や天気予報だけ見た、という人も中には含まれているかもしれない。だとしたら『新聞を読んだ』という程のことだろうか」
また、元毎日新聞外信部長でジャーナリストの河内孝さんは、新聞協会が公表している部数で09年は08年より約100万部減ったことや、「1世帯あたり部数」が08年に「1」を割り込んだ数字の方が重要だ、と話す。「新聞への信頼感の高さに力点を置くなら分かるが、『91%が新聞読んでる』の報道が並んだのは違和感がある」とも付け加えた。
新聞協会では、「伝統的な調査手法の結果、新聞は安定して高い接触を誇り、日常生活に欠かせない基幹メディアであることが改めて確認された」「過去4回(01年~)との時系列比較でも、安定的に推移していた」としている。