不景気の影響もあり消費者はモノを買うことに対して慎重になっている。そんな中で注目を集めているのが、有料の「お試し」だ。酒、生ハム、化粧品、家具など多岐にわたる。消費者にとって、お金はかかるが買った後に失敗するリスクを減らせるといったメリットがある。一方、企業も購買を真剣に検討しているお客にアプローチでき、広がりつつある。
JR東京駅八重洲地下街にあるリカーズハセガワ本店で、洋酒約300品目の有料試飲を行っている。試飲1回分(10ミリリットル)の料金は、販売価格5000円未満の酒は100円、1万円以上1万5000円未満の酒は200円、1万5000円以上2万円未満の酒は250円だ。4万円以上5万円未満の高級酒は700円で試飲できる。
イベリコ豚、生ハムの盛り合わせ1575円
「最近は年配の人や女性も利用しています。1人あたり2杯くらい試飲して、ほとんどの人が商品を買っていきます」
とリカーズハセガワ本店の店員はいっている。
2年前に有料試飲を始めた。爆発的に商品が売れるようになったということはないが、満足して買っていくお客が増えたそうだ。
伊勢丹新宿本店の地下1階食品売り場でも、ハム、和酒、洋酒、ワイン、パリの高級食料品店「エディアール」、キッチンステージの6か所で有料試食を行っている。ハム売り場では、スペイン産のイベリコ豚など旬の生ハム3種の盛り合わせが1575円で試食できる。キッチンステージでは、食品売り場で売られている肉や魚、野菜などをシェフが料理したプレートを2000円前後で提供している。
三越伊勢丹ホールディングスの広報担当者は、
「試食しておいしかったと商品を買っていく方もいますが、買い物の合間の時間つぶしに利用する方も多いです」
といっている。
有料で最新の化粧品を試せるスペースも登場した。
JR横浜駅構内の商業施設「リフレスタ」のメイクアップラウンジでは、花王の化粧品「オーブクチュール」の新製品が30分200円で試せる。商業施設「エチカ池袋」エスパス・ポーズ内のビューティラウンジ「クリュスタ」でも、花王の化粧品「オーブクチュール」の新製品が1時間300円で試せる。両店にはパウダールームがあり、座って使うことができる。
失敗のリスクを減らすための出費
家具店「スタイリクス」を運営するフォー・ディー・コーポレーション(東京・新宿)は、1か月単位で家具をレンタルできる「スマートプラン」を設けている。
ひと月のレンタル料は商品代金の約3%だ。例えば、ダイニングテーブル(定価5万9800円)とダイニングチェア4脚(同7万5600円)をレンタルする場合、1か月目は4410円、それ以降は4400円だ。セミダブルベッド(同8万8200円)とマットレス(4万950円)は、1か月目は6430円、それ以降は4100円だ。気に入れば買い取ることもできる。
広報担当者によると、08年は最初から商品を買う人とレンタル後に買う人が半々だったが、09年はレンタル後に買う人が約65%に増えた。
「不景気の影響で高額商品の買い物に慎重になり、レンタルで借りて問題なければ買うというニーズが高まっていると思います」
フランスベッドも家具のレンタルを行っている。期間は6、12、24、36、48か月の中から選べて、料金は商品によって異なる。学生や単身赴任の会社員のニーズを見込んでいるが、広報担当者は「お試し需要もあるのではないか」とみる。申し込みはウェブサイトと、六本木ショールームなど全国3カ所でも受け付けている。
また同社は5月14日にオープンしたショールーム「ライフサポートプラザ札幌」で、介護ベッドやつえ、シルバーカーなど福祉用品のレンタルを始めた。マットレスや全身マッサージ器が1週間3000円(一部4000円)で借りられるプランもある。
電通総研消費者研究センターの四元正弘・消費の未来研究部長は、
「値段が高いもの、消費期間が長いもの、自分の評価に関わるものは高関与消費と言い、買って失敗した場合に消費者は後悔しやすい。家具もそうです。料金にもよりますが、失敗のリスクを減らすための出費と考えると、お金を出してもお試しするメリットがあります」
と言っている。
また、企業にとっても無料のお試しはコストが大きいが、有料にすることで多少コストを回収できる。さらに、購買を真剣に検討しているお客にアプローチすることができるといったメリットがあるそうだ。