中国広東省深セン市にある、「iPhone(アイフォーン)」などの製造を手がける台湾系メーカー「富士康」の工場で、若い従業員の自殺と見られる転落死が相次いでいる。香港紙報道によると、中国当局が報道規制したとの情報もある。現地で何が起きているのか。
「社会や従業員の家族にお詫びする」。富士康の親会社、台湾・鴻海精密工業の郭台銘薫事長(会長)が2010年5月26日、深セン市の工場で記者会見した。
「原因は厳しい労働管理」説も
郭氏は謝罪はしつつも、自殺の原因の一部は恋愛問題だ、などとし、自殺の原因は過酷な労働条件だ、との見方を否定した。しかし、香港紙「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」などによると、その会見後にも投身や手首切断による自殺、自殺未遂が続いた。10年に入り、これで投身などの「自殺」を図ったのは13人、死者は10人となった。いずれも若く、10代後半から20代半ばの男女だ。現地報道によると、将来の不安を綴った遺書が見つかったケースもある。
富士康の同工場は、約42万人が勤務する世界有数の規模の大工場で、米アップルのアイフォーンなどの受託生産拠点として知られる。同工場で自殺が相次いでいる問題には、中国政府も関心を示し、5月末には党政治局員が視察に訪れるなどしている。
また、中国、台湾メディアだけでなく、日本の各新聞、通信社や、米国でもニューヨーク・タイムズ紙などがこの問題を取り上げている。原因については、中国メディアから「低賃金や短い休憩時間などの厳しい労働管理」や「家族や社会から隔絶された環境」に問題があるとの指摘が出ている。
当局が報道規制に乗り出す?
こうした関心の高まりを受けてか、台湾・鴻海グループは5月28日、富士康の中国人従業員の賃金を約2割上げる計画を明らかにした。生産を委託している米アップルやデルなども、加工賃の引き上げや労働条件の調査を検討している。
一方で、報道を抑えるよう中国当局が規制に乗り出したとの話も出てきた。香港紙「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」(電子版)は5月28日、中国当局が、富士康の自殺問題について、独自取材を控え報道を「トーンダウン」させるよう国内メディアに通達したと報じた。事態が改善に向かうのかどうか、実態が見えにくくなる恐れが出てきた。