腕時計や電子部品の老舗、セイコーホールディングス(HD)で2010年4月末、「社長解任劇」が起きた。「SEIKO」は1970年代、「SONY」とともに世界に名をはせた日本ブランドの巨頭だったが、経営の迷走もあって80年代以降、長期的な低落傾向を反転できず、最近でも09年、10年3月期の2期連続最終赤字に追い込まれている。
経営を立て直して再び輝きを取り戻せるか、服部真二新社長の手腕が問われている。
解任劇は2010年4月30日、東京・銀座の「和光」本館で開いた取締役会で起きた。元検事総長の原田明夫社外取締役が、村野晃一会長兼社長の解任と創業家一族の服部真二副社長の社長昇格を求める緊急動議を提出。その場であっさり人事は決まった。
社長解任劇は肉親同士のまさにお家騒動
真二新社長は会見で村野氏の解任理由について「服部礼次郎名誉会長の意をくんだ独断的な経営で企業統治が不安定化した」と説明した。
少しややこしいが、服部一族で89歳の礼次郎氏はセイコーの元トップで、今も名誉会長。07年以降、4人の取締役が任期途中で辞任に追い込まれるなどの不透明な人事があったが、前トップの村野氏は礼次郎氏の意をくんでこれを断行していた、というのが真二新社長ら新経営陣の立場だ。真二氏は礼次郎氏のおいで、礼次郎氏の養子にもなっており、社長解任劇は肉親同士のまさにお家騒動でもあった。
一方、債務超過に陥っている子会社の高級品専門店「和光」でも、会長兼社長の礼次郎氏と、礼次郎氏の秘書を長年務めた腹心の鵜浦典子専務が解任された。鵜浦氏は一部に「和光の女帝」とも評され、「社内でパワーハラスメントを繰り返した」として、労働組合から株主代表訴訟を求める動きも起きていたことが問題視された。鵜浦氏の行動は週刊誌などでもスキャンダラスに取りあげられている。
真二新社長は報道各社の取材に積極的に応じ、「内部統制強化と人事の透明性を徹底する」などと述べ、「新生セイコー」をアピールするのに懸命だ。
礼次郎氏は引き続きHDの名誉会長にとどまる
ただ、礼次郎氏はなお10%超の大株主であり、引き続きHDの名誉会長にもとどまる。このため、企業統治のあり方が抜本的に変わるか否かは不透明な面もある。そもそも真二氏も社長の前職は代表権のある副社長。村野氏の解任理由となった「礼次郎氏の意をくんだ不透明な人事」の責任の一端は、真二氏にもあるのではないか、との指摘もある。
和光は高級装飾品中心に扱い、贈答品では日本でもトップクラスの老舗。本館及び別館の営業時間は10時半から18時まで、日曜、祝日は営業していない。経営再建に向け、真二氏は例えば「和光は日曜の営業も検討する」と語る。しかし未だにそんな殿様商売を続けられていたことに世間が呆れていることに、真二氏が気づいていない節もある。スイスの時計メーカーを押しのけて世界ブランドとなったSEIKOが、かつての輝きを取り戻すには、より抜本的な経営改革が求められる可能性もある。