鳩山由紀夫首相の「5月退陣」説が一気にトーンダウンしている。
米軍普天間基地の移設先について「最低でも県外」とした公約破りにも、首相は責任をとって辞めるわけでもなく、それどころか、相変わらず「現行案とは違う」との発言を繰り返している。ところが、民主党内から責任を問う声もなく、「退陣」を求めるマスコミもほとんどない。
2010年5月23日に沖縄を訪れた鳩山首相は、「辺野古移設」の方針を仲井真弘多・沖縄県知事らに伝えた。これに沖縄県民は「怒」のプラカードを掲げ、「裏切りだ」と猛反発。当面はこう着状態が続きそうだ。
当初の自・公案とほとんど変わらない
普天間問題は、鳩山首相自らが「5月決着」を公言。8か月に及んで迷走したあげく、事実上の現行案への回帰だ。首相の「最低でも県外」の言葉を信じてきた沖縄県民にしてみれば、「心をもてあそばれた」と怒りをあらわにするのもうなずける。
それにもかかわらず、鳩山首相は24日の閣議後の記者会見で、「住民の安全はもちろん、環境に配慮した新しい形を何としてもつくり上げたい」と、なお現行案ではないと強調する。
政治ジャーナリストの山村明義氏は、「環境に配慮した形の埋め立て案ということだろうが、当初の自・公案とほとんど変わらない」とみる。当の鳩山首相も、具体的な工法などについては語らずじまい。そもそもの「腹案」も今となってはなんだったのかわからないまま。いつもその場を言い繕う思わせぶりな発言が混乱を招いてきたことを自覚していないようだ。
大きく舵を切れたのは「北朝鮮のおかげ」?
こうした中、「鳩山退陣」の論調が急速にしぼんだように見える。2010年5月24日付の新聞各紙の社説では、産経新聞が「『辺野古』で合意まとめよ」と、鳩山首相の決断を支持した。現行案を、地元も一たんは受け入れていることや米国側が「最善の案」としていることをあげ、現実的と評価している。
具体的な工法や建設場所が秋まで先送りされたことを問題視し、「秋まで待つことはない。直ちに辺野古移設に取り組むべきだ」と主張している。
読売新聞は「決断先送りのツケは大きい」と題し、「致命的な判断ミスであり、首相の罪は重い」と断じながらも、普天間飛行場の人口の少ない県北部への移設や米海兵隊8000人のグアム移転、普天間など米軍6施設を返還することなど、「日米合意の実施が地元にとっても負担軽減になることを丁寧に説明することが大切」と説いている。
毎日新聞や朝日新聞も現行案での決着に、「5月決着を取り繕うもの」と厳しめではあるが、首相の責任にふれてはいない。
前出の山村明義氏は、「官邸では、首相が米国よりに大きく舵を切ったのは韓国の沈没船問題、つまり『北朝鮮のおかげ』といった声さえあがっている。5月28日の日米共同声明をもって決着をつけた形にするのでしょうし、いまは3党合意さえしのぎ切れば7月の選挙までは続投との読みが大勢。結局、民主党内にも鳩山首相をクビにするだけの人材がいなかったということです」と話す。