鳩山政権が迷走を続けている沖縄の米軍普天間飛行場の移設問題は、結局移設先は辺野古で、しかも「ほぼ現行案」通りの埋め立て方式になることが濃厚な状勢だ。「最低でも県外」と訴えた鳩山由紀夫首相にあらためて厳しい批判の目が向けられると同時に、建設実現も極めて困難だ。
「普天間 月内に共同声明 辺野古移設を明記」と、朝日新聞は2010年5月20日付の朝刊(東京最終版)で報じた。19日には読売新聞が「『杭打ち桟橋』断念」「迷走…ほぼ現行案」と朝刊(同)で伝えていた。
5月28日にも首相が会見
朝日新聞によると、移設先を現行案通りの沖縄県名護市辺野古周辺と明記した日米共同声明をまとめ、5月28日にも鳩山首相が会見する方向で調整中という。「28日に公表」は、20日付の毎日、産経新聞なども伝えている。これで「5月決着」を形だけでも整えようという腹づもりのようだ。
声明には具体的な工法は触れず先送りするが、実態としては米側が難色を示していた「くい打ち桟橋方式」の実現は困難な状勢だ、とも朝日などは報じている。結局埋め立て方式に戻すのだが、その際、過去の工事の影響などで海へ流れ込んだ土砂などによるヘドロを埋め立てに使うなどし、「環境に配慮した」形に現行案を微修正することも検討されている。訓練の県外移転に触れつつ、具体的な場所は示さないという無責任な形での「決着」も模索されているようだ。
そうした中で、早くも鳩山首相は「埋め立て」に関する自分の発言を修正し始めた。かつて辺野古沖埋め立てについて「自然への冒涜」とまでいっていたのに、5月19日には「埋め立てをむやみに行うことに対してそう発言した」と弁解。「環境配慮型」の埋め立てなら「むやみ」ではない、と言いたいようだ。
結局、ほぼ現行案通りという決着に落ち着きそうな状況だが、それでめでたしめでたし、となるのだろうか。現行案については、名護市の地元3区は06年に容認したし、沖縄県の仲井真弘多知事も滑走路の沖合移動を条件に容認していた。10年1月には移設反対派の稲嶺進・現市長が、容認派だった当時の現職を破って初当選したが、市議会には今も半数近くの現行案容認派がいる。
「今さらの受け入れは極めて厳しい」
「地元3区の容認」は今も「生きて」いるのだろうか。区長に連絡を取ろうとしたが、関係者によると、ある区長は「マスコミの人が、誰からかケータイ番号を聞き出したようで、頻繁にかけてくるようになったので電話を取らないようにしている」と話していたという。
地区住民のある女性に「3区の容認」について質問すると、「少なくとも私の周りの空気ではゼロベースに戻った。前の容認はもう無効ですよ」と話していた。
ある名護市議によると、5月中旬にアメリカ総領事館の担当者と市議数人が会って意見交換し、移転先は辺野古だとアメリカ側が考えているとはっきり分かったという。明言はしなかったが「現行案回帰」を歓迎している空気がにじんでいた。
一方、別の名護市議に話を聞くと、「今さらの受け入れは極めて厳しい」と話した。市議の中には元容認派だったが、鳩山首相の「最低でも県外」に期待を寄せ反対派に転じた人もいる。「以前に容認していたからやっぱりよろしく」と言われても、今さら受け入れられない市民もたくさんいると見ている。
「国が辺野古移設を強行すれば、大袈裟ではなくて暴動が起きはしないか、と心配だ」
もっとも、候補地として浮上してから13年も自民党政権下で膠着状態だった問題が簡単に解決するはずもない、という思いもある。しかし、それでも鳩山首相に望むことは、「ここまで来たら『県外』の約束を守るしかない」。さもないと「いろんな沖縄の不満がいろんな所で吹き出してくる」。
ほぼ現行案に戻せば「状勢も元に戻る」という訳にはいかないようだ。