米アップルの多機能情報端末「iPad」の日本版発売を前に、早くも教育機関や企業で具体的な活用法を模索する動きが出てきた。学生にiPadを無償で配布する大学や、ブライダル産業のようにビジュアル重視の商品を見せる端末として使うケースも見られる。
社員の情報共有のため、アイフォーン(iPhone)を導入した企業はあるが、今後はさらに広い用途での利用が期待できるiPadが主流になるかもしれない。
新入生全員にiPadを無償配布
愛知県稲沢市の名古屋文理大学は、「情報メディア学科」に来春入学する新入生全員にiPadを無償配布する。
同学科では、コンピューターのプログラミングやアプリケーションの開発、デジタルコンテンツの制作を学ぶ。卒業後はシステムエンジニアや、ウェブやCGのデザイナーを目指す。情報メディア学科長の長谷川聡教授は、2009年スタートした学生のアイフォーンアプリ制作プロジェクトで、「学生たちがデザイン性に優れたアプリを試行錯誤する中で、面白い発想が出てくるようになりました」と話す。その矢先にiPadの日本発売が決まり、導入を決めたという。学生がiPadという新しいメディアを活用して、アイデアあふれるアプリを開発してもらう一方で、従来はパソコン実習室以外では不可能だった作業が、持ち運びが簡単なiPadのおかげで、通常の講義室でも学生全員が同じ機器でできるようになるのは便利だと話す。
今年は試験的に数台を導入し、具体的な使い方を考えていくと長谷川教授。学生も大いに関心を寄せているという。
既にiPadが販売されている米国でも、米ペンシルベニア州のシートンヒル大学やオレゴン州のジョージフォックス大学では、今秋の新学期に入学する学生にiPadを支給すると表明。学生が教員やアドバイザーと頻繁にコミュニケーションできる環境を整え、学習効果の向上につなげるのが狙いのようだ。
動画を見せながらウエディングドレスを説明
婚礼プロデュースやレストラン経営を手がけるノバレーゼは、10年5月14日から、東京・銀座の店舗に米国版iPadを試験的に導入した。ウエディングドレスの画像や動画を取り込み、店舗を訪れた顧客に見せている。ノバレーゼ広報部に聞くと、ウエディングドレスを選ぶ際にはこれまで写真を見せるか、何着も試着するしかなかった。持ち運びに便利なiPadであれば、例えば営業担当者がハンガーにかかっているドレスの横に顧客を連れて行って、動画を見せながら「このドレスを実際に着ると、裾はこのぐらい広がります」などと説明しやすく、お客もイメージがわきやすい。ノートパソコンに比べ、「スタイリッシュなiPadのデザインは、店舗の雰囲気にピッタリ合います」(広報担当者)。
現在は米国版を使っているのでインターネット接続はしていない。日本版は16台を予約し、全国の店舗に配置するという。今後は無線LAN接続で、ネット上にあるコンテンツを見せるといった活用法を考えているようだ。
企業以外では、群馬県の富弘美術館が、開館20周年の記念にとiPadの導入を決めた。詩画作家・星野富弘氏の作品4点を、星野氏による音声説明とともにiPadで楽しめる。館内のカフェに7、8台を設置する予定で、同館では「今後は地域のグルメや観光情報のコンテンツも充実させて、若い来館者へのアピールにしたい」と話している。
iPadのユニークな活用法は、発売後さらに増えていきそうだ。