フジテレビの取材スタッフが、口蹄疫被害が広がる宮崎県の畜産農家に消毒もせずに入ったと同県議がブログで批判している。同県では、たとえ消毒しても農家に取材に入らないようマスコミに要請している。ところが、フジテレビは、消毒していなかったことは認めたものの、県から取材自粛要請はなかったなどと主張している。
「マスコミに怒り」
横田照夫宮崎県議の2010年5月17日付ブログは、こんな見出しで始まっている。
宮崎県「取材自粛要請することになっていた」
それによると、宮崎市佐土原町の田ノ上地区に同日午後、「フジテレビの取材陣が、なんのコンタクトもなく、いきなり畜舎に来て取材を始めた」。
宮崎県の対策本部によると、口蹄疫感染が分かった4月20日、同県はマスコミに家畜の移動規制区域を中心に畜産農家を直接取材しないよう求める自粛要請を始めた。規制区域内でも一般車両の消毒義務はないが、たとえ消毒したとしても、何らかのきっかけで感染する恐れが捨てきれないためだ。その代わりに、同県が映像や写真を提供している。地元マスコミでは、要請を受けて、農家への取材はしていないという。
宮崎市佐土原町は、5月16日に感染が分かり牛を殺処分した新富町と川を挟んで隣接している。17日には、佐土原町も翌日から家畜の移動規制区域に入るとの情報が流され、県が問い合わせのあったマスコミに取材自粛要請をすることになっていた。そこに、フジテレビの取材スタッフが突然入ってきたというのだ。
横田県議のブログによると、別の畜産農家が「消毒はしているんですか?」と聞いたところ、スタッフからは「していない」との答えが返ってきた。「消毒ポイントがどこにあるのか知らない」とも言ったという。
これに対し、横田県議は、ブログで怒りを露わにした。
「地区全体で口蹄疫から畜産を守ろうとしているのに、何という配慮のない行動でしょうか。農家も自治会長もカンカンに怒っておられるようです」
フジテレビ「取材自粛要請はありませんでした」
横田照夫宮崎県議のブログは、その後、2010年5月18日夕まで削除されたような状態になっている。
そこで、横田県議に取材すると、削除したわけではなく、アクセスが多すぎてブログがパンクしたことを明らかにした。いったんブログを閉じただけで、フジテレビが取材に入った事実関係に間違いはないという。
「地区に口蹄疫感染が近づいてきて、農家がピリピリしているときに、配慮なく取材に入ってこられました。マスコミが感染媒体になる可能性も十分あります。パンデミックといってもいい状態なのに、非常に迷惑しています」
県の対策本部では、畜産農家に入ることは、できるだけ控えるよう呼びかけている。消毒したエサの搬入などに限られ、役場職員や農協ですら入らないという。横田県議も、農家には立ち入らないといい、各市町村の対策本部だけを回っている。
「マスコミの気持ちも分からないことはありません。一般の人に伝えるのが役目とは思いますが、今は感染を押さえ込むのが最優先です。1日でも早く収束させるために、協力してほしい」
ところが、フジテレビの広報部では、取材に対し、農家の取材許可を得たとしたうえで、県が取材自粛要請をしているとする点については、こう反論のコメントをしている。
「県からの当該地域への取材自粛要請はありませんでしたし、取材後の抗議などもありません。現地は搬出制限エリア(家畜の搬出禁止)であり、消毒が義務付けられたものではありませんでした。口蹄疫被害が拡大し、地域の皆様の不安が募る現状なども考え、その後は取材前後の消毒などの感染防止対策を徹底するよう指示しました」
取材自粛のルールについては、現地の系列放送局を通じて確認済みだったという。