全国の空港の大部分が赤字経営を続けるなか、空港ビルを経営する会社の多くが黒字を出している。これらの会社の多くは、「国から土地を借りてビルを建て、航空会社やレストラン・土産物屋から賃料収入を得る」というビジネスモデルだ。
いわば、「空港自体は赤字なのに、ビルだけ儲かっている」という構図で、航空会社が賃料引き下げの交渉を進めたり、国土交通省は土地を貸す料金の引き上げを検討したりするなど、今後、様々な面から風当たりが強くなってきそうだ。
空港本体は軒並み赤字に苦しむ
国土交通省が2009年7月発表した、国が管理する全国の26空港の収支によると、06年度の営業損益ベースで22空港が赤字だ。その中でも、民有地を借り上げるコストがかさんだ福岡空港と那覇空港の赤字額が際だっており、それぞれ67億900万円、54億7200万円の赤字を計上している。
一方、これらの空港の土地を借りて営業しているビル会社は、かなりの黒字をあげている。前原誠司国交相が09年11月10日の会見で明らかにしたところによると、前出の26空港で旅客・貨物施設を運営している民間の「指定空港機能施設事業者」38社のうち、約8割にあたる32事業者が黒字で、剰余金は2264億円にのぼる。
自治体などが管理する地方空港に目を転じても、状況は同じだ。東京商工リサーチが2010年2月に発表した調査結果によると、全国の空港ビル会社60社の中で、08年度決算の経常利益の額を回答した50社のうち、黒字だったのは9割にあたる45社。
最も黒字が多かったのが羽田空港ターミナルビルを管理する「日本空港ビルデング」の48億7200万円で、新千歳空港ターミナルビルを管理する「北海道空港」(17億1555万円)、那覇空港ビルディング(13億1859万円、福岡空港ビルディング(13億700万円)などが続いている。
いわば、「国から安く借りて、テナントに高く貸している」形で、国も現状を問題視している。たとえば前原氏は前出の会見で、
「空港の運営自体は赤字で、こういった施設が黒字で巨額の剰余金を生んでいるというのは誰がどう考えてもおかしい」
と、貸付料を値上げする意向を示してもいる。
JALは賃料として年約300億円を支出
これら空港ビル会社の「大口テナント」は、もちろん航空会社で、全国60社のうち40社は、日本航空(JAL)グループの出資を受けてもいる。その航空会社の側からも、値下げの動きが進んでいる。
JAL広報部では「個別の契約についてはお答えできません」としているものの、全国の空港ビル会社に、賃料として年間約300億円を支出しているとされる。特に羽田空港については共用部分を含んで約65億円を支出しているとされ、月額にすると1坪約3万円。「都心と同様の賃料水準で割高だ」との批判もある。
JALでは、「ここ数年ほど、借りるスペースを減らし、賃料を値下げする方向で申し入れをしています」と説明。同社では、02年の日本エアシステム(JAS)との統合以来、JALとJASで重複していたスペースからの撤退を進めているが、今後も、ダウンサイジングが加速することになりそうだ。
空港ビル側は、国と航空会社の両方から要求を突きつけられている形で、今後も「儲けすぎ批判」が加速する可能性もある。前出の東京商工リサーチの調査でも
「空港ビル会社がこれまで通りに高収益を維持できるかは不透明で、空港を取り巻く経営環境は大きな転換点に差し掛かっている」
と結論づけており、やはり前途は多難な様子だ。