米アップル社の多機能情報端末「iPad」には、電子書籍端末としての機能にも注目が集まっている。先行して発売された米国では、電子ブックをiPadにダウンロードして読む人が増えているようだ。
ところが、アップルは日本の一部の書籍コンテンツに対して、配信を認めないようだ。その対象は、マンガ。性的な描写や暴力シーンが少しでも含まれていると「判断」が下されると、iPad用に電子ブック化されない恐れがある。
暴力シーンでないのに「却下」
iPadには、電子ブックを閲覧する機能がある。米国版では、「iBooks」というアプリケーションをダウンロードし、購入した電子ブックを読むことが可能だ。米国での電子書籍のダウンロード数は、2010年5月7日(米国時間)時点で、150万冊に達した。
日本でも5月11日、約600の書店が加盟する東京都書店商業組合がiPad向けに電子雑誌を販売することを明らかにした。携帯電話向け電子書籍販売サイトを通じて、6月にスタートする予定だ。大手出版社は3月24日に「日本電子書籍出版社協会」発足を発表。日本における電子出版事業をどう推進していくか、検討を重ねているとみられる。
日本での普及には、電子書籍コンテンツそのものの拡充が必要だが、ここにきて別の「問題」が浮上した。日本のマンガが、アップルの「審査」に引っかかったようなのだ。 電子出版事業を手がけるボイジャーの萩野正昭社長が、ネットニュースのインタビューで明かしたもの。ボイジャーが関与した講談社のコミックをiPhone(アイフォーン)用のアプリケーションにして、アップルのコンテンツ配信サービス「iTunes store」に申請したところ、約30%が却下されたという。暴力シーンではなく疫病で血が流れた場面や、女性の胸がハプニングで露出したシーンも「残虐」「エロ」と判断された可能性があるようだ。
このニュースは「2ちゃんねる」で早速話題になった。
「手術の血も駄目なのか」
「結局、電子書籍普及せずwww 外国の作品充実したって誰も見ないもんな」
「アメコミも暴力シーンあるからNGなん? スパイダーマンとかX-MENとか」
と、「マンガ禁止」への落胆ぶりが見て取れた。
セクシー系アプリも大量削除
講談社広報室に電話で取材すると、この件についてはノーコメントとし、「アップルの基準で決めたことでしょうから、アップルに聞いたらどうですか」と、けんもほろろ。そこでアップルジャパンに、どんな基準で性的、暴力的と判断するのかを尋ねると、これまた「コメントできません」。さらに、「日本の書店で販売されているマンガが、なぜアップルでは『却下』なのか」と質問するが、これも「ゼロ回答」。どこの国のどんな基準で「性的」「暴力的」と区別するのか、分からずじまいだった。
ただアップルは、「そぐわない」と判断したコンテンツに対して、さらに神経を尖らせているようには見える。2月には、アプリケーション配信サイト「アップストア」から「セクシー系」アプリが大量に削除された。また日本でも、自分が開発したアプリが「性的描写」を理由に却下されたが、詳しい理由は何も告げられないとブログで嘆く人もいる。一方で、米誌「スポーツ・イラストレイテッド」が配信する、女性の水着写真を掲載したアプリは今でも入手可能と、今ひとつ基準が不明だ。
関係者は誰も何も答えないが、iPadで読める電子ブックも、入手できるアプリケーションも、アップルのさじ加減一つで決まる恐れが出ている。